和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

料理の喜び

抗がん剤の投与を開始した当初、妻は吐き気や倦怠感のために食事もままならず、また、味覚障害にも悩まされていました。

私は妻が美味しいと感じる食事を食べさせたくて試行錯誤しましたが、消化が良く塩分控えめな食事として、カツオや昆布で出汁を引いた「くたくたうどん」が人気メニューとなりました。その名前のとおりコシがなくなるまで時間をかけて茹でたうどんです。

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今思えば、顆粒のダシを使っても変わらなかったのかもしれませんが、手間暇をかけて食事を用意することが、私の妻への罪滅ぼしや感謝につながるものと感じていたのでしょう。妻は「離乳食みたいだ」と言いましたが、娘たちが幼い頃、妻は出汁を引いて離乳食の手作りに励んでいたことをその時初めて知りました。

妻の治療は続いていますが、今は副作用のほとんどない薬を使っているので、食事に気を遣うことはなくなりました。妻を見ていて、食べたいものが食べられる状態がどんなに素晴らしいことか分かりました。私の立場からすれば、食べてもらいたいものを妻が口にしているのを見ることが喜びとなりました。

決して手の込んだ料理を作るわけではありません。日によっては、冷蔵庫の在庫一掃のための名もなき一品になることもあります。それでも、食卓を囲んで家族との他愛のない会話を楽しみながらの夕食は、私の楽しみのひと時です。そのための料理の時間も楽しみのひとつなので、飽きたり嫌気が差したりすることはありません。

こんな生活を三年余り続けていますが、私が心穏やかでいられる生き方とはこういうことなのかもしれない、と思うようになりました。