和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

味覚障害にチャレンジ

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酒と料理の組み合わせ

一昨年の暮れに、銀婚式のお祝いに妻と外食をしました。今までは、肉料理なら赤ワイン、魚介類なら白ワインと、その程度の知識しかなかった私たちでしたが、そのレストランのソムリエに勧められるままに料理と飲み物の組み合わせを堪能しました。

 

それまで、料理に合う酒、あるいは酒に合う肴と言ったペアリングなど全く考えたことも無かった私は、新たな楽しみを見つけた気分でした。

 

その後、ことあるごとに食べ物と飲み物のペアリングの“実験”に精を出す私に、渋々付き合う妻と言った、マティーニ実験室の情景が再現されました。

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自己流のペアリングのほとんどは妻から合格点をもらうことは出来ませんでしたが、「ドライなシャンパンと納豆巻き」、「芋けんぴクリームチーズディップとバーボンのロック」は意外に好評でした。

 

妻の闘病生活が始まってからは、ペアリングの実験室は一時休業状態でしたが、先日のゴールデンウィークは期間限定で臨時営業をしました。手術後、次の抗がん剤投与開始までの間に、主治医の先生からのお許しを得て実現したアルコール解禁期間でした。

 

柿の種とレーズンバター

酒の肴として、お茶の当てとして、妻は柿の種とレーズンバターを好んで口にしました。特に、レーズンバターは市販のものでは無く、家でラム酒に漬け込んだものを無塩バターで混ぜ固めた、自家製のレーズンバターが大のお気に入りでした。

 

ゴールデンウィークに合わせて、私はレーズンバターを用意しましたが、妻は一つだけ口に運んだだけでした。柿の種も味が良く分からないと嘆いていました。

 

以前投与していた抗がん剤の副作用からか、味覚障害が残っている状態でのアルコール解禁は、妻としては不本意なものだったようです。妻曰く、ワインも肴も、薄い膜に覆われて、味がはっきりしないとのことでした。

 

私としては、妻と一緒に同じ食事、同じ飲み物を楽しみ、私が思いついたペアリングに付き合ってくれる日が早く来ることを期待するばかりです。

 

味覚障害に挑む

妻の味覚障害は、最初の抗がん剤投与の直後から始まり、塩味だけ強く感じたり、甘辛が認識しづらかったりと、味の輪郭がぼやけてしまう症状が続きました。症状は、抗がん剤の副作用が強く出る最初の1週間を過ぎると大分改善されます。

 

しかし、元の味覚を取り戻す前に次の抗がん剤投与が始まるため、妻は、この半年余りの間、食べ物や飲み物の味を堪能する状態ではありませんでした。そのため、食事の支度の際には、その時の妻の味覚の状態に合わせて味付けを調整してきました。

 

抗がん剤投与から1週間は、吐き気を抑える内服薬の影響もあり、食欲不振や消化不良の症状も出ることから、妻はおかゆや柔らかいうどんくらいしか口に出来ません。その後、薬の副作用が軽減し、次の抗がん剤投与までが、妻にとっては食事を楽しめる期間になるのですが、味覚障害のために、口に入れたものを美味しいと感じられないのだそうです。

 

当初は、妻の食事だけを別に作っていたのですが、調理の効率が悪いのと、食卓を囲む家族で、毎回目の前の料理が異なるのは気まずいことから、結局、妻の体調に合わせた料理を家族全員で摂ることになりました。

 

病人食の物足りなさを何とか工夫して、娘たちからも文句が出ない食事・・・。味覚の感度が違う相手を同じ料理で納得させるのは案外難しいものです。おまけに、刺激物も使えないとなると、香辛料の効いたピリ辛な食べ物もダメです。

 

結果として、我が家の料理は、出汁を多めにした超減塩な健康料理に落ち着きました。もちろん、毎食それでは、あまりにも変化に乏しく味気なくなってしまうので、妻に断った上で、たまに少々ボリュームのある品を加えたりしています。

 

味覚障害も日によって症状が異なります。妻に美味しいと感じてもらえる食事が出来た日は、私も自作の料理を楽しめます。料理を作ることに限らず、誰かを喜ばすための行為は、張り合いを感じさせるものだとつくづく思いました。