和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

片思いのスキンシップ

マッサージ係

スキンケアなど無頓着な私だったのですが、ここ数年、ひじやひざ、かかとの“ガサつき”は酷いモノで、放置できない状態になりました。小まめな水分補給は欠かさないようにしているつもりでも、体の保湿力は加齢には抗えないのでしょう。

 

冬の間、保湿クリームが手放せませんでしたが、ここ最近、ようやく肌の状態も良くなってきました。若い頃は湿度の高い梅雨の時期は鬱陶しいものでしたが、今はこのしっとりとした空気がとても好きです。

 

妻は私と違って、以前はどちらかと言うと多汗症気味だったのですが、抗がん剤の投与を開始して以来、肌の乾燥に悩まされるようになりました。薬の影響で血行が悪くなることが原因のようで、症状が酷くなった頃から、病院で処方してもらった保湿クリームを使うようになりました。

 

看護師さんからは、クリームを塗布する際にマッサージすることで血行を促進し肌の状態も改善されると聞いたので、入浴後の妻の背中に保湿クリームを塗るのが私の日課になりました。

 

片思いのスキンシップ

思えば、付き合い始めから結婚した後も外出時には手をつないでいた私たちでしたが、いつしか子どもが間に挟まり、それぞれが親としての役割に専念する中で夫婦としての関係は二の次となりました。そうして妻と手をつなぐきっかけもなく二十数年が経ちました。

 

妻の発病前、ようやく娘たちも手がかからなくなり、夫婦二人で旅行に出かける機会がありました。観光中にいくらでも妻の手を取るチャンスはあったはずなのですが、結局、久しぶりの夫婦水入らずの旅行はどこかぎこちないまま終わってしまいました。当時の私は、熟年夫婦は心のつながりが大切で、スキンシップは必要ないものと片づけていました。

 

私にとって、妻の背中にクリームを擦りこむ作業は片思いのスキンシップです。妻は私のそんな気持ちを知る由もないのでしょうが、私は妻の肌に触れる“正当な理由”がいつまでも続くことを願っているのでした。