和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

結婚と転勤

チャンスと悩み

連休前日の今日、私とペアを組んでいる若手社員と昼食を共にしました。彼はこのゴールデンウィークに婚約者を両親に会わせるために帰省する予定。先日その話を聞かされた私は、モニター越しの綻んだ顔を見て幸せを分けてもらった気がしましたが、今日の彼はどことなく浮かない様子でした。

 

そのことについて尋ねると、今朝上司から転勤の打診があったことを打ち明けてくれました。国内ならいざ知らず、転勤先は海外です。駐在期間は数年になるでしょう。結婚を遅らせるのか、別居婚を選ぶのか、あるいは婚約者を連れて赴任するのか ‐ 生真面目な青年の顔が曇るのも無理はありません。上司は彼に連休明けには返事が欲しいと言ったそうですが、彼と婚約者にとってのベストな選択を決断するには十分な時間があるとは言えません。

 

海外駐在は彼のキャリアパスの好機であるかもしれませんが、結婚は彼にとっての一大事。ここで誤った選択をすれば婚約者との明るいはずの未来に影を差すことにもなりかねません。

 

彼は、私が同じ立場だったらどうするかと尋ねました。

 

私の反省

妻と私が結婚したのはもう三十年も前のことです。同じ部署の私たちが結婚することを知った上司は、私に東京本社への転勤を伝えました。それは、偶然だったのかもしれませんし、仕事を続けたいと周囲に漏らしていた妻を - 悪い言葉を使えば – 寿退社に追い込むための手段だったのかもしれません。当時は、結婚すれば女性は家庭に入るのが当たり前との風潮が残っていました。

 

妻は悔しがっていましたが、遠距離婚を続ける自信の無かった私は彼女を説得して東京での新婚生活を選びました。

 

その後、妻は新しい仕事を見つけることが出来ましたが、その四年後に妊娠し、同じタイミングで私の海外駐在が決まったため、仕事を辞めることになりました。

 

結局、私は自分の仕事を優先して、妻のキャリアパスを二の次にしたのです。いまさらWhat ifを考えても詮無いことですが、今の時代であれば、妻は会社を辞めずにいられたはずです。「寿退社」は死語となり、社内結婚組で共働きを続ける社員が普通になりました。また、かつては転勤の社命を断ることなど“もっての外”でしたが、今や会社は社員の家庭の事情も考慮して人員配置を行なうことになっています。

 

もっとも、彼の場合、婚約者は別の会社に勤めているので、事情は異なります。

 

私が彼の立場だったらどうするか。あの当時、若くて自分のキャリアに多少なりとも野心があった私は妻のキャリアを犠牲にしてしまいました。

 

紆余曲折あって家族との時間を大切に考えるようになった私が、今の考え方のまま昔に戻れたなら、そして、彼の置かれている立場になったなら、私は転勤を断ったことでしょう。それによって評価が下がったり昇進が遅れたりしても、それよりも大切にしなければならないことがあります。

 

私はあくまでも仮定の話として、自分の考えを伝えました。会社の人間として私は彼を説き伏せるべき立場にいるのだと思います。しかし、真剣に悩んでいる青年に建前は不要です。私は彼に素敵な人生を歩んで行ってもらいたいと願っています。それは会社の中での成功だけを意味するものではありません。