和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

家族優先とキャリアアップ

成り手不足

私と仕事のペアを組んでいる若手社員。海外駐在の打診を断り、別の会社で働くお相手との結婚を予定どおり進めることになりました。

 

別居婚や結婚を遅らせることも選択肢にはあったようですが、二人で相談を重ねて出した結論に、私は他人事ながら胸を撫で下ろしました。

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今や、子どもの教育や親の介護など、それぞれに家庭の事情を抱える社員は、簡単に転勤に応じることが少なくなりました。もっとも、“家庭の事情”など、今に始まったことではなく、かつてはそれを押して単身赴任する社員の方が多数派でしたが、夫婦共働きが普通になり、単身赴任を受け入れられる社員は激減しました。

 

会社は海外駐在どころか国内転勤の成り手すら探すのに苦労しています。結果として、ひとたび転勤するとなかなか本社に戻って来られない社員が増えることとなります。

 

私は運良く家族の理解も得られ、その時の状況が許してくれたため、二度の海外勤務を経験することができましたが、二度目の駐在では後任が決まらない状態が三年近く続きました。

 

その“延長期間”の間、独り暮らしだった義母は介護が必要な状態となり、妻は数か月に一度日本と駐在地の行き来をしていました。妻にとっては駐在期間の最後の一年余りは苦悩の時期で、私はそれに対する申し訳なさを今でも引き摺っています。

 

今も、ある駐在地では、当初の駐在期間を過ぎても帰国できない単身赴任者がいます。会社は後任が決まらないことを理由に彼の駐在をズルズルと延ばし続けていますが、これは彼が会社の事情を理解してくれているから成り立っているだけです。むしろ、駐在期間の原則など口約束で、ひとたび転勤させられたらいつ戻って来られるか分からない“実例”こそ、駐在・転勤に応じる社員の激減に拍車をかけているのだと思います。

 

キャリアアップの条件

ひと昔前までは、転勤はキャリアアップのための必須条件でした。本社内の特定の部署で“純粋培養”された社員とて、キャリアアップのために短期間の転勤を経験させられました。現在の人事考課の項目からは国内外の転勤経験は外されましたが、社命に従って文句を言わずに異動する社員は全体的な評価が高くなるのは変わっていないと思います。

 

それでも、転勤や駐在を忌避する社員が増える傾向にあるのは、昇進・昇格のための箔付けよりも家族を優先する考えが普通になった表われなのでしょう。

 

ところで、社内に転勤や駐在を希望している社員が皆無かというと、決してそのようなことはなく、候補者は探せばいるのです。ただ、本人が希望しても、現部署の囲い込みで異動させられないなど、“家庭の事情”と比べれば大したことのない社内事情が理由である場合が多い気がします。

 

社命が絶対という時代ではなくなりました。無理強いすれば社員は別の道を見つけて会社を去っていきます。会社にとって都合の良い社員などすでに希少価値化しているのかもしれません。