和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

会社の思惑 社員の思い

言うことを聞かない社員

私の勤め先では4月1日が大規模な人事異動のタイミングなのですが、年々人のやり繰りに苦慮する度合いが高まっているようです。

 

それは、単に人手不足だけでは無く、転勤や駐在、あるいは昇格を拒む社員が増えつつあることも理由のようです。

 

転勤拒否と聞くと、私くらいの年齢だと「業務命令違反」とか「懲戒処分」と言う言葉が頭に浮かびますが、今の時代、会社の命令にかつての権勢はありません。

 

労働組合からの申し入れや世の中の流れで、会社は従業員の個人的な事情や意向を考慮して、働き方の多様性を認めた上で異動を考えると社員に約束したので、自ら約束を反故にすることは出来ません。

 

その結果、候補の社員が異動に難色を示すと、直属の上司やそのまた上の上司が宥めすかして社員に翻意を促すことになるのですが、それでも埒が明かなければ“次を当たる”しか手は無くなります。異動を拒否した社員は懲戒処分とはならなくても、おそらく人事考課にはマイナスの影響が出るでしょうが、それを気にする社員はそもそも業務命令に「ノー」とは言いません。会社の評価よりも自分のライフスタイルや価値観を大切にしたい社員が増えたのです。

 

かつての新入社員と言えば、海外駐在を希望する者が多かったのですが、今や海外どころか国内の転勤も望まない社員の方が主流だと人事部の担当者は嘆きます。

 

人事異動は“玉突き”なので、抜けた後が決まらなければ人を動かすことが出来ません。会社は人手不足と転勤拒否の二重苦で人材の活性化すら覚束なくなってきています。

 

さらに、昇格を拒む社員が出始めたと言うのは、時代の流れだけで済む話では無さそうです。

社員は自分の上司や役員を見て、自分の将来像を思い浮かべます。もし、自分の上司の仕事振りが“割に合わない”と見られれば、若い社員が現状の職責と給料で十分、そこそこのお金を手に入れることが出来れば、高望みせずに自分の生き方を守りたい – そんな風に考えたとしても不思議ではありません。

 

会社の命令は絶対と信じる社員ばかりなら、人事部はどんなに楽だったことでしょう。社員の個人的な事情など斟酌する必要は無く、機械的に玉突きを行なえば良いだけなのですから。二十年くらい前までは、そんな人事異動がまかり通っていました。しかし、会社の言うことを聞かない社員が一人、二人と増えて来て、ついに会社が強権を発動することなど出来ない状態となりました。

 

在宅勤務の攻防

昨年暮れ、新型コロナ感染者が減少傾向にある中で、会社は在宅勤務の日数を段階的に減らして原則出社勤務に戻そうとしました。

 

超保守的な会社にとって、そもそも在宅勤務制度は、新型コロナの感染拡大が無ければ導入されるはずの無いものでした。会社としては、決して前向きに検討した上で在宅勤務を決めたわけでは無く、業務継続のための窮余の策と言う位置付けで、嵐が過ぎ去れば元に戻すつもりだったのでしょう。

 

結局、その話は、再び新規感染者数が増加し始めたため有耶無耶になってしまいましたが、会社が規則の変更を強行出来なかったのは、社員からの反対の声が予想以上に多かったからでした。

 

人事部は、在宅勤務は労務管理に不向きであることや社員の気の緩みにつながると説明しましたが、それらには何の根拠もありませんでした。対する労働組合は、在宅勤務の効果として、時間外労働減少を数値で示しました。また、人事部に対して、幹部社員も含めたアンケート実施を要請しました。その結果、多くの社員が、在宅勤務により生まれた時間的余裕を有効に活用していることが分かりました。

 

制度が導入される以前から、会社は在宅勤務のデメリットを主張してきましたが、社員はそのようなデメリットが無いことを示しただけでなく、在宅勤務の良さを知ってしまいました。

 

職場と言う、物理的な共同作業の場を全く否定するものでは無いにしても、週5日も時間をかけてまで通勤しなくても仕事は回るのです。日頃から“結果が全て”と言う上司にとっては部下が目の前にいようと在宅で仕事をしていようと関係無いはず。結果が伴っていれば良いのですから。

 

もちろん、社員の中には、家では仕事が捗らない、職場に通勤することで仕事とプライベートの切り替えをする方が好ましいと言う者もいます。私のように、家族のケアと仕事のバランスを考える者にとっては、在宅勤務は理想的な働き方です。

 

これまでは、介護が必要な家族を抱えている社員には、時短勤務と言う選択肢がありましたが、これは通勤を前提としたものでした。しかし、在宅勤務制度の導入により、時短勤務から通常勤務に戻った社員もいると聞きます。

 

転勤拒否、昇格拒否、在宅勤務賛成 - 会社の思惑と社員の思いの間の溝を埋めることが出来なければ、やがて働きづらい会社になってしまうことは容易に想像がつきます。

 

会社が、働き方の多様性を認めると言うのであれば、在宅勤務制度をより使いやすいものにした方が会社と社員双方にメリットがあると思うのですが、そこは超保守的な会社のこと。一歩踏み出すことはそう簡単なことではなさそうです。