和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

猫に鈴をつける役

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50%の壁

先月、緊急事態宣言が解除されたことに伴い、会社は、コロナ禍での対応方針を「不要不急の出社は控える」から「部単位での出社率50%を目標とする」に改めました。

 

普通に読めば、「各部とも出社する社員を半分以下に抑える」と理解するのが自然だと思うのですが、少なくない数の社員が人事部に対して、「社員の半分は出社せよとの意味か」との問い合わせを行なったと言う話を聞きました。

 

現在、在宅勤務が認められている一方で、要出社日数は決められていません。在宅勤務で仕事が片付くのであれば、わざわざ出社する必要は無いのです。

 

最初から、「部単位での出社率は50%以下を目標とする」としていたなら、どこからも文句は来なかったのでしょう。それにしても、言葉尻を捉えた問い合わせが人事部に複数件来たと聞いて、私としては、不安を抱えながら仕事をしている社員の心のささくれが見えたような気がしました。

 

さて、私の部署ですが、本部長である役員、部長と二人の課長はほぼ毎日出社しているようです。その下の部員は、おそらく出社率20%を切っていると思います。一週間の実稼働日を5日とすると、週1日出社するかしないか、と言う感じです。

 

私が部長を務めていた頃は、私も含めて在宅勤務を主として仕事をしていましたが、新しい部長になってから、課長二人はほぼ毎日出社するようになりました。私は彼らにその理由を尋ねるつもりはありません。彼らは現職の部長の言葉に従って50%の壁の向こう側にいることになった。それだけです。

 

空気を読め

以前、私の上司だった役員から、部の出社率が低いことを指摘され、「空気を読め」と言われたことがあります。過去、様々な状況で、上の人間から何度か似たようなことは言われてきました。恐らく、人事評価などでの私の「協調性」の点数はあまり高くないと思います。

 

私は決して、チームの和を乱すことを好む人間ではありませんが、考え無しに「右へ倣え」をするのは抵抗があります。上席の人間が「Aランチ」を頼んだら、その場にいる全員が「Aランチ」を頼む – そんなチームは好きではありませんし、自分の部下にそのような“思考停止人間”にはなってもらいたくありませんでした。

 

在宅勤務が制度として始まった頃、私も含めた部の全員が、在宅か出社かを自主的に選んでいました。私が出社しようがしまいが、他の部員は気にしません。他の部署から出社率の低さを指摘された時も、業務に支障が無いことを確認した上で、在宅勤務をメインに仕事を続けてきました。

 

もし、会社にとって空気の読める人間こそ都合の良い社員なのだとすれば、“上席の人間が出社しているのだから、自分も家にいるわけにはいかない” – そのような考え方の、あるいは思考停止している、人間をもっと採用すれば良いのだと思います。

 

今、社内で空気が読める人間の多くは、自分がどうすれば良いのか、考えるのが面倒くさい、考えたくない – だから、上の人間のすることに追従しているだけ、そう私の目には映ります。

 

同調圧力とまでは言わないにしても、暗黙の了解や、普通ではない“普通”が蔓延る中で、我が道を行くのは簡単ではありません。それは、ここまで会社人生を歩んできた立場から断言できる事実です。だからこそ、私たち中間管理職が - 私は最早その席にはいませんが – 若手や中堅社員の防波堤となる必要があるのだと思います。私は、場の空気を読むのでは無く、自身の心と対話のできる人間と一緒に仕事をしたいと思っていたのです。

 

猫の鈴

私とペアを組んでいる若手社員と仕事の打ち合わせをしていた際、彼が私に言いました。課長のひとりから、私に週1日でも2日でも出勤出来ないか聞くように指示されたと。本当は“それとなく”聞くようにとのことだったようですが、彼は目下転職活動中の身。しがらみも無く、余計な小細工無しに私に部の現状を話してくれました。

 

私はずっと在宅勤務を続けているので、最近の会社の様子は良く分かりません。彼曰く、同じフロアの他の部署では、平均すると週の半分程度は出勤しているようで、それと比べると、私の部署は部長・課長を除くと出社率はかなり低いと言うことでした。

 

彼が推測するに、課長は上から部員の出社率を上げるように指示されたのではないか。そのために、“在宅勤務派”の私を説得する必要があると考えたのでは無いかと言うことでした。

 

元部下が私に直接話をしないことや、安易に上席の人間に同調しようとする動きを知って、私は内心穏やかでいられなくなりました。その感情は口調にも表れたのでしょう。彼から、「落ち着いてくださいね」と宥められてしまいました。

 

私はカッとなって事を荒立てるほど、もう若くはありません。彼には、「直接課長と話がしたい」と伝えるに留めました。課長を問い詰めるつもりはありません。ただ、よりによって私の首に鈴をつける役を若手社員に命じるとは、ちょっと情けない気がしました。元上司と部下の間に寒々とした溝を感じた瞬間でした。