和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

管理職のただ働き(1)

意欲的な社員

コロナ禍以前、労働組合からの強い要望により、会社は在宅勤務制度導入の検討を始めたものの、とりわけ人事部は、リモートワークでは上司が部下の勤怠管理を行なえないことを理由に、頑なな態度を崩しませんでした。

 

もし、コロナ禍がなかったなら、会社が在宅勤務を認めることはなく、私も、今のように仕事と家族のケアの両立を続けることは出来ませんでした。

 

管理する側が全てそうとは言い切れませんが、“勤怠管理”と言った時に、それは、部下がサボらないよう監視することだと思い込んでいる管理職は少なくないと思います。部下を仕事に張り付かせておくことだけ考えてると、そのような発想になってしまうのでしょう。

 

成果主義と言いながらも、有休をろくに取らずに仕事をし、残業時間削減と言いながらも、夜遅くまで机に噛り付いている部下の方が、相対的に高く評価される - 私の勤め先では、まだそのような傾向が残っています。私は、在宅勤務で“サボる”社員が増えるよりも、仕事とプライベートの意識が曖昧になってしまうことによる労働時間増の方が心配でした。

 

仕事の成果が全く同じであれば、作業効率が良かった者を高く評価すべきなのですが、仕事にコミットする時間の長い方が“意欲的”と見られるということは、裏を返せば、仕事の成果そのものや、就業時間の遵守は評価項目の中では脇役だと言っているのと同じです。

 

もっとも、上司からの“受け”を考えて、意欲的な社員の振りをする者もいるのでしょうが、それよりも、残業している同僚への気兼ねや、上司より先に退社するのを気まずく思うことで、“付き合い残業”をしている社員の方が多いような気がします。かつての私もその一人でした。

 

在宅勤務では上司や部下の顔が見えないため、サボろうと思えばいくらでもサボることが出来る反面、勤務時間が終わってもパソコンの前から離れられない社員もいるのではないかと思います。

 

残業しない意識

在宅勤務制度導入以前の、私がまだ管理職だった頃、一緒に働いていた部下に繰り返し言っていたことは、終業後に予定を入れておくことでした。それは、習い事でもスポーツジムで運動することでも、家族との夕食でも何でも構いませんでした。次の予定が決まっていれば、それまでに仕事を片付けようとする意識が働きます。

 

私の部署で、業務の棚卸しと無駄な仕事を止めたことが、残業時間削減に大きな役割を果たしたのは言うまでもありませんが、そのような業務の効率化の原動力は、それぞれの部員が「残業しない」意識を持ったことでした。

 

仕事の成果の“質”を可能な限り維持しながら、部全体の残業時間を大幅に削減したことは、それ自体、業務効率化が可能であることの証だったのですが、同じフロアの管理職の一部からは、私に対して、部下を“甘やかしている”とか、スタンドプレイだと嫌味を言われました。

 

自分たちが遅くまで働いているのに、隣りの部署が残業せずにさっさと帰宅する様を不快に感じるのは、分からなくもありません。私は - 部員たちには失礼な話ですが - 自分の部が実験台になることで、仕事に対する意識の変化が別の部署にも広がることを密かに期待していたのですが、結局、それは叶いませんでした。(続く)