和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

会社と社員のすれ違い(1)

仕事のオンオフ

今年も残すところ3か月余りとなりました。

 

かつての私にとっては、毎年ここから来年の3月まで、胃が痛くなるような時期が続きました。事業計画や予算、来年度の人員計画、部下との面談。仕事が立て込んでくると、いくら自分で“仕事スイッチ”をオフにしたくても、周りがそれを許してくれません。自分や家族との時間を確保出来たとしても、頭の中から完全に仕事をシャットアウトすることは簡単なことではありませんでした。

 

ただ、そのようなことは、私が以前の働き方から抜け出せて初めて実感できたのであって、もし、妻や私自身が何事も無く過ごしていたなら、さしたる疑問も感じずに、今年も「胃が痛い」と文句を言いながら仕事を続けていたのだと思います。

 

仕事のオンオフの切り替えは、どんなに頭で分かっていてもそれが出来なければ意味がありません。これまで私はかつての自分の部下にその必要性を説いておきながら自分のことは棚に上げてきました。そのことをずっと後ろめたく感じていたのですが、ようやく今、仕事のオンオフを実現出来る環境を手に入れました。

 

貧乏くじ

これから繁忙期を迎える私の部署では、人手不足は一向に解消されず、業務の見直しもされないまま年末を迎えるようです。私が春先から部長に言い続けている人員の補強は全く目途が立っていません。

 

聞くところによれば、来年度の新規採用者は初めて定員割れとなりそうです。会社は以前から、数では無く優秀な人材の確保に重点を置くと言って、景気に左右されない採用枠維持してきました。ここ数年の自己都合退職者の増加を見れば、言葉は悪いですが、歩留まりを考えて採用枠を広げておくべきだったのだと思います。応募してくる学生や転職希望者を選り好み出来るような会社ではなくなっていることをそろそろ認める時なのです。

 

毎月社内で公表される人事発令では、最早驚かなくなりましたが、若手や中堅の社員の自己都合退職が目立ちます。新規採用の定員割れを前に手をこまねいている間にも人材の流出は続いています。

 

後が続かなければ、若手社員は下働きの役割から抜け出せません。成長願望の強い社員がキャリアアップのために新天地を求めるのは当然のことで、そのような機会を提供せずに人材を引き留めることは無理な話です。

 

大分前に、ある役員と話をしていた時に、「うちの会社は給料も福利厚生も悪くないのに、(若手・中堅社員が)辞めて行くのはもったいない」と真顔で不思議がっていました。私は、今時、定年まで一つの会社で勤め上げようと考えている若者はほとんどいないこと、自分の市場価値を高めることが処遇面と同じくらいに重要になっていることをその役員に説明したのですが、どうもピンと来ていない様子でした。

 

かく言う私も、入社当時から将来の転職を考えたり、そのためのキャリアパスを思い描いたりはしていませんでした。その点で言えば、私と件の役員は同類なのです。違いは、私は仕事場で若手や中堅社員の思いを聞かせてもらえる立場にあったことでした。

 

もし、私も自分よりも若い世代の社員と会話する機会がなければ、「なぜ辞めて行くのだろう」と素朴な疑問を感じていたかもしれません。

 

キャリアアップだけが問題なのではありません。これだけ人員不足が慢性化してくると、好きな時に休暇が取れない事態になることもそう遠くないのではないかと思います。一般社員の勤務時間は厳格に管理されていることになっていますが、在宅勤務が併用されているため、時間外勤務を正確に把握するのは難しくなっています。職場の上司は、部下の仕事が所定内の労働時間で完結するように考慮するのですが、手が足りない部分は自分でこなすしかありません。自ずと残業や休日出勤をせざるを得ない状態に陥ります。

 

あと二~三年もすると、残業慣れしていない管理職が出始めます。管理職になれば残業代はつきませんが、残業をしなくて良いわけではありません。プライベートの時間が削がれることにこれから管理職になる世代は耐えられるのでしょうか。

 

部下を管理する仕事が増えて、なおかつ実務も行なうことになれば、役割に応じた職責とは別の、“しわ寄せ”を引き受けることになるのですから、管理職の手当がつくだけでは「割に合わない」と不満を抱く管理職も増えることでしょう。

 

上司の働きぶりから、管理職になることが抜擢では無く貧乏くじを引くようなものと見れば、可能性のある若い社員が他の道を探そうと思うのは止められないことです。(続く)