和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

会社と社員のすれ違い(2)

自己都合退職は悪

私の勤め先では、すでに人材不足は“対処すべき課題”から“喫緊の問題”になりました。放置すれば、新規事業の立ち上げなどままならず、例えチャンスが到来しても事業を展開する余力を失ってしまいます。それどころか、既存の仕事も立ち行かなくなります。

 

先日、私がHR委員会のメンバーだった頃から付き合いのある同僚と話をする機会がありました。彼はまだ委員会メンバーなのですが、委員会では現在、社員のモチベーションを維持するための方策を検討中だそうです。

 

社員のモチベーションを維持出来るような職場であれば、会社への定着率が高まり、人手不足も解消されると期待しているのか、あるいは、仕事に意欲的な人間が揃えば、少ない員数でも仕事を回せると思っているのか、いずれにしても、その手の話はHR委員会で何度も話に上がっては結論が出ずに終わった議論でした。

 

社員ひとりひとりの意欲が高まれば - 当時も今も、私はその話を持ち出されるたびに、会社が悪い方向に流れて行く責任を下の人間に擦りつけようとしているのではないかと疑ってしまいます。

 

新卒入社にしても中途入社にしても、うちの会社を選んでくれた社員は入社当初はそれなりの意欲があったのだと思います。それにも拘らず、数年後にはその中の少なく無い数の人間が会社を去って行きました。

 

会社を辞める理由は人それぞれですが、これだけ自己都合退職者が増えれば、会社に何か原因があると考えても良さそうなものです。

 

何が若者の意欲を殺いでしまうのかを真面目に検証しなければ、社員のモチベーションを維持するための方策を立てられるわけがないのですが、HR委員会でも、そちらの方向に話が進むと、途端に世代間の仕事に対する意識のギャップや、若い世代の個人主義的な傾向と言った陳腐な一般論でごまかそうとする幹部社員がいます。

 

都合の悪いことを、会社を去っていった人間に押しつけるのは簡単ですが、何の解決策も生み出しません。辞めて行った人間が悪いと結論づけてしまうのは、自己都合退職者が年に数人程度の時代なら通用したのかもしれませんが、働き手が毎月数名ずつ職場から抜けている状況で、辞めた人間を悪者にすることには無理があります。

 

悪循環

思うに、能力のある若手や中堅の社員は、自分が活躍でき、五年後、十年後の自分のあるべき姿を思浮かべられるような場を求めています。もし、現在の職場が、能力を十分に発揮出来るような環境で、将来自分がやりたいことが見つけられていれば、彼ら・彼女らがわざわざ転職することを思い立つことすら無いでしょう。

 

また、仕事と同じくらいにプライベートの生活を充実させたいと願うことも普通になりました。私が言い続けていた“仕事スイッチのオンオフ”など、今の若い世代にとっては、至極当然のことで、それを敢えて口にする私などは、すでに時代遅れなのでしょう。

 

若い世代に活躍の場を提供するためには、結局は、コンスタントに人材を採用して職場に余力を持たせることが必要なのだと思います。

 

どんなに有能でも、部署の中で一番“下っ端”だからと、自分の後釜が配属されるまで何年も雑務だけをやらされていれば、モチベーションの維持など出来るはずがありません。

 

管理職になった途端に自分の時間を減らされ、部下のワークライフバランスを守るために自分が犠牲となる ‐ 管理職の転職が目立ち始めているのは、そのような環境からくる“疲弊”が原因のひとつなのだと想像します。

 

会社は、多くの社員がモチベーションを殺がれるような扱いを受けていることを知るべきなのです。

 

ワークライフバランス働き方改革など、会社は世の中の流れについて行こうとしていますが、それも十分な人材を確保出来てこその話です。人材の余力が無ければ、社員に成長の機会を与えることも、自分や家族と安心して向き合えるための環境を与えることも出来ません。

 

今の会社は、それと真逆なことをやろうとしています。マンパワーの低下を個々の意欲を高め、少数精鋭で乗り切ろうと言うのでしょう。

 

しかし、現場目線で見れば、人材の余力を失い、残された人間への負荷が高まる悪循環が続く限り、モチベーションの維持どころかモチベーションの低下を食い止めることすらままなりません。

 

会社は人材育成や働き方の多様化を売り文句にして採用活動を続けていますが、いざ入社してみると、そんなきれいな言葉のかけらも見つけることが出来ないとがっかりする社員が多いことと思います。

 

社員の期待を裏切っている会社が、社員に期待をかけることは出来ません。仕事を回すために社員の意欲に頼ることは出来ません。働く環境が整えば、会社に貢献しようとする意欲は後からついてくるものだと思うのですが、会社は依然として根性論が好きなようです。