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管理ハラスメント

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若者の愚痴に耳を傾ける

私の勤め先では、年に1回ハラスメントの研修があります。以前は社外講師を招いての座学が中心だったのですが、最近は、役職ごとに数回に分けて研修を行なうことになりました。

 

それぞれの職場でのハラスメントの事例を持ち寄り、何が悪かったのか、どうすればハラスメントにならなかったのかを少人数のグループで議論することを繰り返します。

 

バイアスにしてもハラスメントにしても、意識改革は一度きりの講習を受ければ達成できるものでは無いので、繰り返しが必要なのでしょう。その点、このような研修 - と言うよりワークショップに近いのですが – は、日頃仕事での付き合いも無い他所の部署の社員との意見交換も出来るので、プロの講師による一方向の講義よりも有意義なのかもしれません。

 

さて、昨年に続いて今年もオンラインでのハラスメント研修が始まりました。これから年度末まで、数回に分けて幹部社員の研修と一般社員の研修が行なわれます。

 

今年、私は役職を外れたので、一般社員の部への参加となりましたが、人事部から“人手が足りないので”、各グループを回って議論の進行役をするように頼まれました。

 

今回の研修では1グループ4人から5人、6グループで議論を進めました。それぞれが体験したハラスメントを報告し合いますが、自分が受けた体験と誰かに不快な思いをさせてしまった – あるいはそう考えられる - 体験を発表し合います。

 

今回、若手・中堅社員から多く聞かれた声は在宅勤務に関するものでした。曰く、上司から仕事をサボっているのではないかと疑われる。チャットや携帯電話で頻繁に居場所の確認をされる。上司に合わせて出社することを“遠回しに”強要される、等々。

 

もちろん、中には本人の思い過ごしもあるでしょうが、ちょっとした行き違いで上司と部下ともども疑心暗鬼に陥ることもあり得るのだと思いました。

 

それにしても、部署も違えば仕事も違う社員が一同に会した中で、上司に対する不満が似通っているのは、“思い過ごし”だと簡単に片づけられるものではありません。

 

管理ハラスメントの罠

在宅勤務が始まった当初、管理職からよく聞かれたのは、どのように部下の勤務状況を把握するのかと言う迷いでした。人事部は、在宅勤務者には、勤務開始時にその日の作業スケジュールを上司に提出し、終業時には業務実績を報告するよう社員に求めました。

 

当時部長だった私は、自分の部下にはそのような仕事は求めませんでした。在宅勤務者に限って余計な仕事を増やすのはナンセンスだと考えたからです。出社する社員は机に座ってさえいれば、上司への報告は不要、と言うのも訳が分かりません。

 

そもそも、管理すること自体が目的になってしまっては、管理職に本来求められる“円滑に仕事を回すこと”が疎かになってしまいます。在宅勤務と言う、上司の目の行き届かないところで部下が仕事をすることを会社が認めた以上、部下を信用して仕事を任せるしかないのです。

 

結果責任を負うのが上司の役割なのですから、部下をスケジュール管理で縛る代わりに、個々人の仕事に対する意欲を掻き立てるように努める方が余程建設的だと考えます。

 

結局、始業時と終業時に上司にその日の予定と実績を報告するのは、しばらくすると形骸化して有耶無耶になってしまったのですが、それでも、部下を管理したがる上司が減ったわけでは無いようです。部下を信用しきれない上司は、部下には自分の目の前で仕事をさせないと落ち着かないのでしょう。

 

ほとんどの上司は部下に対する嫌がらせでそのような行動に出ているわけでは無いのでしょうが、部下としては“嫌がらせ”と受け止めてしまっても仕方の無いことなのだと思いました。そして、そのような上司の下で働く部下は、在宅勤務で常時監視されているような環境で仕事をするよりは、出社して自分の机に座っている方が気が楽だと言います。

 

「仕事は結果が全て」と言う上司は多いのですが、まだまだ見た目に囚われる管理職は減らないようです。かつて、部の残業時間を減らした途端に、別の部署の仕事が回ってきたことがありました。当然、仕事が減った部署の残業時間は減るものと期待するのですが、それでも残業時間は対して減りません。

 

詰まるところ、就業時間内で仕事を片付けようと言う意識が無ければ、そこに人手を増やそうが、仕事を減らそうが、残業時間そのものを減らすことは出来ないのです。

 

しかも、そのような部署に限って上司は、就業のチャイムが鳴っても机にかじりついている部下を見て安心します。部下も、残業するくらいに仕事をしていないと上司から“手を抜いている”と思わるのではないかと不安になってしまうこともあるようです。上司も部下も、仕事の成果では無く、“見た目のやる気”に騙されているとも知らずにそのような愚行を止められません。

 

管理職の仕事は部署が担う業務先般の工程管理です。部下がサボらないように、暇にならないように仕事をさせることが管理職の仕事では無いのですが、信じて任せることが出来ない上司は、知らないうちに管理ハラスメントの罠に嵌まっているのかもしれません。