和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

失敗と教訓 (2)

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失敗だけはしたくない

失敗すること自体が嫌なので、自分が主体となって仕事はしたくないと言う若手社員。もし、私の下にこのような部下が異動してきたら、お手上げかもしれません。本人に仕事に取り組む意欲がなければ、どんなに潜在能力があっても、それを引き出すことは難しいと思います。

 

仕事をさぼるわけでは無くても、向上心が無かったり、責任回避するタイプだったりすると、新しい課題にチャレンジさせることすら出来ないのです。ましてや、今の管理職は“ハラスメント”と言う言葉にとても敏感です。部下に仕事の指示をするにしても、相手の受け止め方次第でパワハラになってしまうのですから厄介です。

 

その一方で、グループの中での役割分担の公平性を保つためには、グループ員の力量を見ながらも仕事の負荷に偏りが無いように配慮する必要もあるため、グループ員全員の仕事に対する志向がある程度同じ方向を指していないと、組織の中に軋轢を生むことにもなりかねません。

 

私が若い頃は、ハードルの高い仕事を任された時には、上司から「責任は自分が取るから、思い切ってやってみろ」と背中を押されたものでした。しかし、失敗すること自体を忌避する者に対しては、そのような上司からの言葉は、心を奮い立たせる役には立たないようです。

 

今まで、私の下で一緒に働いた若手社員の中にも、「部下の管理や重い責任を負わされる管理職にはなりたくない」と断言する者がいました。確かにそのような考えには私も首肯します。仕事の多様化の点では、従来のように、ヒラ社員から管理職という梯子以外にも、組織の管理とは離れた、自分の専門性を深化させられるようなポジションがあっても良いのではないかと思います。そういう意味では、すでにフェロー制を採用している企業もあるので、高度な専門知識を有する社員であれば、部下の管理や社内調整などの雑音に邪魔されずに専門分野の仕事に特化する仕組み作りは検討の余地ありだと思います。

 

しかし、ただ「失敗したくない」と言う社員に対してはどのように応じたらいいのか、悩ましいところです。

 

現状に満足

失敗したくない。今の仕事で十分。責任が増えるくらいなら今のままの給料でいい – 定年まで残り数年の人間が言うのであればまだ分かりますが、まだ入社して数年の若者が「今のままで十分」、「責任が増える仕事は避けたい」、「失敗するのは嫌だ」と思うのは何故なのでしょうか。

 

そこでふと思い出したのが、私が数年前、ある部署の課長だった時に一緒に仕事をした部下のことです。彼は入社して7年目。最初の2年は原料や資機材の調達を行う部署に勤務していましたが、その後、自ら希望して事業部に異動してきました。それだけ聞くと、自分のやりたい仕事に取り組もうとしているのではと思いそうですが、実際はそうでも無さそうでした。私の前任者からの引継ぎでは、彼は早めに別の部署に異動させるべきであること、当てに出来ないこと、その2点の申し送りを受けていました。

 

しかし、実際はと言うと、彼は頼んだ仕事は期限どおりに仕上げて、その内容も悪くは無いものだったので、能力はそれなりにあるのだと感じました。ただし、問題は、指示されたことしかやらない点でした。頼んだ仕事に、何か良いアイデアがあれば加えるように指示しても、そのようなリクエストには全く応えないのです。

 

通常、自分の部下とは年度末に一年を振り返る面談を行いますが、私はそれを待たずに、私が前任者と交代した1か月余り後に彼と時間を取って話をしました。

 

彼は物腰も柔らかく素直な性格は好感が持てました。普通、上司の指示に文句をつける部下は、個人面談の席でも斜に抱えるところがあるものですが、彼にはそのような様子は見受けられませんでした。一方で、彼は仕事にかける意欲を持ち合わせておらず、次のような希望を持っていました。

 

自分は結婚するつもりも無いので、独りで生活するのに困らないだけの稼ぎが得られればそれで十分。これまで、中学、高校、大学と、親の言うとおりの学校に進学してきたが、これからは自分のペースで生きて行きたい。責任や成果を期待されるような仕事を担当して、日々追われるような生活はしたくない。

 

そして彼は、「言われた仕事は期限どおりに仕上げるよう努力するが、自分で考えて仕事をしたり、新しいことにチャレンジする必要性が理解できない」と言います。もし、それが昇格・昇給の条件なら、給料は据え置きで仕事も現状のままが良い、と言いました。今の仕事、今の生活で十分満足しているので、自分を煩わすことはしないでほしいと言うことなのでしょう。

 

彼の言うことも理解できますが、会社としては、「よし、分かった」とは言えません。私はその後、手を変え品を変え彼の説得を試みましたが、最後は私の上司が見るに見かねて、彼を別の部署に異動させました。彼は最後まで事業部の仕事に拘っていましたが、半ば強制的に異動となりました。

 

失敗と教訓

会社は人件費抑制のために、管理職のポストを減らし減点主義で昇格を阻みます。同じ口で社員には、失敗を恐れるなと言っても、若手社員はそのような会社の事情はとっくの昔に見透かされているのかもしれません。

 

失敗から得られる教訓は、後進に引き継がれ、集合体の知見として蓄積されるべきものですが、失敗を避けたり、失敗そのものを認めなかったりすれば、得るべき教訓を得ないまま会社は同じ過ちを繰り返すことになります。

 

私の勤め先のように、成果主義を標榜しながら、実は減点主義で人事が行なわれているような会社は、若い人から見れば、長く勤めていてもメリットに乏しく、会社に対する忠誠心など湧いてくるはずもありません。ワークライフバランスをより一層意識する若い世代にとっては、自分らしく生きられるために職業を選択する傾向がより顕著だと考えます。企業ブランドや給料の多少で会社を選ぶ時代では無いのかもしれません。

 

そのような時代に、若い人たちを新しいことにチャレンジさせたり、失敗を恐れずに仕事に取り組ませたりするには、どのように働きかければいいのか、悩みは尽きません。