和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

効率化のジレンマ

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連鎖

児童虐待は世代間で連鎖するとの説があります。親は自分が育てられてきたようにしか子供を育てることが出来ない – それが全ての親子に当てはまるのか定かではありませんが、会社での上司・部下の関係性も似たところがあるようです。

 

パワハラに関する社内研修を繰り返してきたことで、私の職場は昔に比べれば、格段に働きやすい環境になったと言える・・・と思います。

 

しかし、人の心はそう簡単に入れ替えが利くものでは無く、今まで部下に対して高圧的な態度を続けていた上司が、数回の研修を受けただけで考え方を180度変えると言うのは俄かに信じられません。染みついたパワハラマインドは、潜行して見えづらくなっただけではないかと思うのです。

 

パワハラなどと言う言葉の無かった頃に、上司に“しごかれて”来た者が、いざ人の上に立った時、部下には同じ思いをさせたくないと考える人が多数を占めると信じたいところですが、過去の恨みを晴らすように部下に接する上司がいることは確かです。

 

あるいは、そこまで極端では無くても、かつての上司に教え込まれたワークスタイルを変えることが出来ず、それを直接・間接的に自分の部下に押しつけている上司は少なくありません。上司や先輩から教え込まれたことは、本人が意識して変えようと努めなければ、目下の人間へと連鎖するのだと思います。

 

異物混入

今のご時世、露骨な部下いびりは会社が許すはずがありませんが、「そんなことをしてだれが得をするのか」と言うほどに子供じみたことをする管理職がいるのは事実です。

 

仕事に対する価値観が自分と違うだけで、部下を冷遇する上司がいるのは今に始まったことではありませんが、“ターゲット”にされた社員からしてみれば、自分の信念を貫くことで、社内で不利益を被るのは、納得しろと言われても無理な話です。

 

職場での協調性は重んじるべきものですが、上司の顔色を窺って“一丸となった”職場の中で、独り正論を吐いたものが上司に睨まれるだけでなく、同僚から憂さ晴らしの標的になることもあります。いびつに調和した集団にとって、正論は混入することが許されない異物として排除されます。

 

効率化が首を絞める

社員のみならず、部署が標的になることもあります。私が初めて部長職となった部署で、業務の棚卸しと優先順位の見直しを行ない、残業ゼロにした途端に、隣りの部署の仕事が回ってきたことがありました。

 

まず、残業をゼロにした時点で、上司の担当役員から妙なことを言われました。「なぜ半年足らずの間に急に“仕事が減った”のか」。私は業務の効率化と各部員の役割分担の見直しを行なった結果だと説明しましたが、どうも納得していない様子。最後には、「暇になったのなら、他所の部署を手伝ってやれ」と言われました。私は、「まずは部署内で工夫するように指示してください」と、上司の申し出を断りました。

 

ところが、それからしばらくして、本当に隣の部署から仕事が回ってきました。業務命令となれば拒否することも出来ず、受けざるを得ません。

 

仕事を減らすのは手間がかかりますが、余計な仕事はいくらでも見つけてくることが出来ます。しかし、そのような仕事は大概、達成感をもたらさない“囚人の穴掘り”のようなもので、社員のモチベーション向上につながりません。

 

私の部署では、部員の面々も意地になったのでしょう。新たに回された仕事を検証して、無駄なプロセスを無くして勤務時間内に片づけることに成功しました。

 

片や、隣りの部署の残業は減りません。それは、仕事の量では無く、管理職がいつまでも帰宅しないことが原因でした。帰りづらい雰囲気の中、部下は明日に回せる仕事をし続けていたのです。

 

「何時までに仕上げる」と言う意志を持たずにいると、自ずと“ダラダラ”とした仕事になってしまいます。上司がいる間は帰れないと諦めていては、日中の仕事はダラダラとしか進みません。私は部員たちにアフターファイブを計画的に過ごすよう促しました。予定を立てることで終業時間とともに退社する習慣をつけてもらいたかったのです。

 

そのようなことを、隣りの部長に話したところ、烈火のごとく怒られました。私の物言いが気に喰わないのは分かっていました。あちらからしてみれば、同じ部長職でも私のような毛の生えそろわないヒヨコからの忠告など聞きたくも無かったことでしょう。

 

しかし、露骨に残業を強いるようなパワハラで無くても、“残業を強いられているような”雰囲気の職場を作っている責任は上司にあります。部下は嫌々ながらも自分の意思で残業している以上、誰にも文句を言えず、しかも、自分だけ早く帰りたいとも言えない状況に置かれていたのです。

 

私はその部署に2年ほどいて異動になってしまいましたが、その間、一部の部員は“忙しい部署”に異動させられ、部の業務量は減らないものの減員となってしまいました。しわ寄せは私や直下の課長たちが負うこととなりました。効率化を推し進めた結果、自分たちの首を絞めてしまったのです。

 

一般社員の、実質残業ゼロは、その後、社長の鶴の一声で実行に移されましたが、その陰で、管理職による時間外勤務や休日出勤が増える結果となりました。

 

管理職の退職が目立ち始めたのは、この頃からだと思います。