和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

お札とあんみつ

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お札とあんみつ

新居の引き渡しの際に、建築会社から家内安全のお札を頂きました。信仰心の全く無い私ですが、せっかく頂いた物をぞんざいに扱ってはならないことくらいの弁えはあります。

 

とは言え、お札を祭る神棚の無い家。あれこれ考えた挙句に、小さな籠の中にお札を入れて、それを二階の南側の窓に面した本棚の最上段に置くことにしました。

 

一年間お世話になったお札は神社でお焚き上げをしてもらい、新しいお札に買い替えると言うことなので、引っ越し以来四年間、それを律儀に守っています。

 

最初の二年は、妻と私の二人で神社を訪れました。最寄りの駅から数駅、そこから徒歩15分、駅前の商店街を抜けると、住宅街の中にこぢんまりとした佇まいの神社があります。お札を買い替えるだけなので、用事はすぐに終わってしまいます。

 

そのまま帰るのも間が抜けている – それを言い訳に、妻は来た道で目に着けていた甘味処を目指しました。

 

翌年も、妻と私はお札を買って甘味処でおやつを楽しみましたが、昨年は生憎妻が外出できる状態では無かったため、名代(?)として下の娘に付き合ってもらいました。妻は、気の進まない娘を、「帰りにおやつを食べさせてもらえるから」と食べ物で釣ったのを覚えています。

 

そして、今年、私はすっかりお札の買い替えの時期を失念していたのですが、先週になって、下の娘が、今年はいつ行くのかと私に尋ねて、ようやく大事なことを思い出した次第です。

 

大切な用事は楽しみと一緒に記憶しておくに限ります。残念ながら私は甘党ではありますが、娘ほどの執着はありませんでした。ともあれ、例年より二か月遅れになったものの、娘のお陰でお札の買い替えを忘れずに済みました。

 

何でもない休日

当日は、日中でも足元から這い上がって来るような寒さを覚える日だったので、妻には留守番をしてもらうつもりだったのですが、すでに外出の準備を整えています。出かける気満々になってしまった妻は、誰も止められません。

 

私と娘は、妻のペースに合わせて歩くことにし、様子を見て必要ならタクシーを拾えば良いと考えていましたが、その日は妻の体調も良く、良い散歩になりました。

 

神社では、お札と併せて妻のために病気平癒のお守りも買いました。来年就活生になる娘は自分ようにと、合格祈願のお守りを買いました。

 

帰り道はお決まりの甘味処に。妻が美味しそうにあんみつを口に運ぶ姿を見て、こんなに喜ぶのだったら、昨年も妻の体調の良い日を選んで連れてくれば良かったと思いました。

 

何でもない休日の午後でしたが、こうして親子で過ごす時間はとても愛おしいいものです。

 

娘が何気に私に尋ねました。最近は休みの日に仕事をしなくなったけれど大丈夫なのかと。

 

気がついたら幸せ

私が仕事をセーブして役職も降りたことは妻にしか話していませんでした。二人の娘に仕事のことを話す必要もないと考えていたからなのですが、一年あまり前までは、休日出勤や自室に籠って仕事をしていた父親が、しばらく前から“休日に休んでいる”姿を見て、様子の変化に気がついていたようです。

 

隠す必要の無いことなので、私は娘に自分の思いを話しました。私が考えを改めるきっかけの一つは、妻の看病に専念したいからでしたが、娘には、私が家族との時間を大切にしたいことが唯一の理由だと説明しました。

 

思うに、昨春に管理職から退いた際、会社から支給されていた仕事用の携帯電話を返却してから、時間後や休日に仕事の電話がかかって来ることも無くなりました。今は個人の携帯電話の番号は直属の上司にしか教えていません。仕事のメールも休日にチェックすることなど無くなりました。

 

いわゆる「つながらない権利」は、私の勤め先では、まだあまり注目されていません。かつて、私は自分の部署の中では、時間後と休日は急ぎの用件以外、無闇にメールを発信しないように決めたのですが、関連部署の仕事のやり方までは口出しできません。当時、私が総務部や人事部に、時間後や休日に不要不急の業務連絡をしないようなルール作りを提案したところ、各部署で適当にやってくれと言う、予想はしていましたが、がっかりした返事をもらいました。

 

ごく当たり前に休日に休めるようになった私にとっては、、娘に言われるまで、会社でのそんなやり取りを忘れていたほど、はるか昔の出来事に感じています。心穏やかな状態は噛みしめるようなものでも無く、ふとした瞬間に気づくものなのかもしれません。私も娘の一言で、楽な気分でいる自分に気がつきました。

 

新しいお札を本棚の上の定位置に祭った後、来年はもう少し暖かいうちにお札の買い替えに出かけようと思いました。