和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

働きにくさ

前回の記事で触れたとおり、私の職場はコロナ禍以前の勤務形態に戻りつつあります。在宅勤務日数の制限もさることながら、執務室の人口密度上昇で以前よりも働きにくい職場になってしまったのではないでしょうか。

物理的な職場環境の悪化や働き方の不自由さの影響は、数日、数か月の短い時間では目に見えないかもしれませんが、転職を考えている社員の背中を、悪い意味で後押しする効果はあると考えています。

若手や中堅社員の退職数が増え始めたのは、もう十年近く前のことです。“終身雇用制度が実質的に終わりを告げたから”というのは、転職を考える理由のひとつであって、勤めている会社に何の不満もなければ、転職を考えることもないでしょう。

当時、会社や労働組合が別々に社員に対する意識調査を行ないました。質問事項は変われども、今も定期的に似たような意識調査は行われています。

以前の意識調査の結果から見えてきたものは、社員の多くが会社の将来性や自身のキャリアパスについての不安・不満を抱いている様子でした。会社が中長期の成長戦略を明確に示すことができず、若手・中堅社員がそのような経営陣に対して見切りをつけた ― 当時の私はそのように理解しました。

しかし、最近の意識調査では、経営陣に対する不満として、人手不足の改善が進まないことや公平感のない評価制度が増えています。

昨年、別の部署で働いていた中堅社員が会社を去りました。彼の部署では、彼より若い代は新卒採用もキャリア採用も長く務まらず、結果として三十代半ばの彼が一番若手の状態が続いていたようです。

“下っ端の仕事”であるはずの雑務は彼が引き受けざるを得ず、付加価値の高い仕事に充てるべき時間を確保することもままなりません。しかしながら、人手不足が恒常化し欠員補充の目途が立たないため、彼は下っ端の仕事から抜け出すことができませんでした。

彼が退職を決心したのは、昨年受験した管理職登用のアセスメントに不合格となったことです。第三者機関によるもので、しかも、判定基準が理解しづらいアセスメントです。彼としては、現状の仕事に対する不満と、管理職になれる希望も薄くなったことで、会社に見切りをつけたのだと言いました。

以前の意識調査で意見の多かった、「会社のビジョンが不明確」とか「社員のキャリア開発の道筋を示されていない」といった不満は、会社や自分の将来に対するものでした。

件の彼の退職は、将来に対する不満や不安ではなく、現に自分が置かれている状況に対するフラストレーションが理由でした。

退職理由の変化。意識調査で見られる会社への不満は、転職予備軍の声なのでしょう。あと数年、もしかしたら、次回の意識調査で、働きにくさに対する不満が急増しているかもしれません。