和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

ビジネスパーソンの市場価値

f:id:lambamirstan:20191026045002j:plain

若手社員の転職

私とペアを組んで仕事をしている若手社員の転職が決まりました。彼は、上司に退職届を提出した上で、“確認のため”、その上司と人事部の担当課長にその日の面談概要をメールしました。

 

以前、彼が上司に転職するかの悩みを打ち明けたところ、部長まで登場して、転職を思い止まるよう説得攻勢を受けたことがありました。私は彼からそのことを聞かされ、転職は社内の誰とも相談せずに進めるように忠告していました。

 

上の人間が寄ってたかって若手社員の翻意を促すと言うのも見苦しい話ですが、自身の退職や転職は、社内の誰かに相談するものでは無く、自分で決断するものです。余程口が堅く信用のおける人物以外、軽々に転職や退職の相談などするものではありません。

 

彼から話を聞いた私は、転職のことは、“私も含めて”誰とも相談せずに決めること、決まったら教えてくれれば良いとだけ彼に伝えました。それを彼は忠実に守ったのでした。

 

彼からのメールを受け取ったのは、先週金曜日の夕方でした。上司とのやり取りを終えて、すぐに私に知らせてくれたのでしょう。私はそれに対して、「おめでとう」の言葉の後に、ゆっくり週末を過ごして、来週からまたよろしく、と手短な返信メールを送りました。

 

そして、そろそろ仕事を上がろうかと思っていた時間に、彼の上司である課長から、少し話したいとチャットで連絡がありました。急ぎでなければ週明けにしてもらいたいとの私の返事に、彼は、急ぎの要件であることと、30分だけ時間が欲しいと返してきました。

 

大概、“すぐに終わる話”の半分以上はすぐには終わりません。今回もその例に漏れませんでした。課長からの話は、私に若手社員の転職を思い止まらせてほしいと言うものでした。私は最早そのような役回りでは無いことを彼に伝えました。

 

ここ数年、若手社員の自己都合退職が珍しくなくなったことを考えれば、自分の部下が退職することは驚くようなことではありません。たとえ、部下とどんなに良好な関係を保っていても、それが本人を会社につなぎ留めておくことにはならない時代なのです。

 

ただ、私は課長に一つだけ質問をしました。件の若手社員が異動してきた4月から、本人とどれだけ話をしたのか。ビデオをオフにしているので課長の表情は見て取れませんが、向こう側から乾いた笑い声が聞こえてきました。私が嫌いな彼の癖です。そこは笑うところでは無いだろうと言う場面で、何故か発せられる笑い声。言葉に詰まり、逃げ場の無い状況をごまかすための彼なりの無意識の知恵なのでしょうが、聞いているこちら側をイラつかせる以上の効果はありません。

 

いくら自分の仕事が忙しいからとは言え、部下を飼い殺しにして良い理由などありません。そんな状態だから、最初に若手社員が転職の相談を持ち掛けた時にあたふたすることになるのです。

 

課長は、数か月前までは私の部下でした。部内のコミュニケーションの大切さ、とりわけ、年齢の離れている若手・中堅社員との意思疎通を上手く取るよう注意が必要なことは、折に触れ何度も話をしてきたのですが、そのような肝心なことを部内に浸透させられなかった自分を恥ずかしく思いました。

 

簡単で済むはずの話が1時間を超えたところで、私は課長に、無駄な説得は止めることと代わりの人間を早急に決めることを“お願いして”、打ち合わせを半ば強制的に打ち切りました。毎週金曜日は早めに夕食の準備に取り掛かるはずが、大幅に予定が狂ってしまいました。

 

ビジネスパーソンの市場価値

会社として、社員が若いうちに様々な経験を積ませて適性を探る。そのことを私は否定するつもりはありません。

 

しかし、すでに自分の進みたい道を明確に持っている若者に、いろいろな仕事を“つまみ食い”させることは、本人からすれば、自分の意向を蔑ろにされたと受け止められるリスクがあります。

 

件の若手社員は、会計の分野に関心があり、経理部での仕事を続けたいと希望していました。それにも拘わらず、ジョブローテーションの一環として、彼は私の部署に異動させられました。

 

若手社員のジョブローテーションは、人事部の社員育成プログラムの話なので、現業の部署が関知することでは無く、人事部の手配で回されてきた若手社員が、我々の部署の仕事に関心があるか否かも知るところではありません。

 

ただし、受け入れ先の部署としては、本人の意向を十分に把握しておく必要はあるでしょう。そうしなければ、何をもって本人のモチベーションを維持し高めるかの見当もつきません。

 

彼は、学生時代から会計の分野で自分のキャリアアップを図りたいと言う意向がありました。将来的には会計事務所での仕事も視野に、まずは民間企業での経験を積みたいと考えていたようです。

 

いろいろな職種での経験を積ませたいと言う会社の考え。彼はその考えに一定の理解は示したものの、それは自分のキャリアパスを考えた時に、無駄な時間にしかならないと思ったようです。

 

もし、会社が若手社員ひとりひとりの意向を汲み取り、ジョブローテーションに乗せる・乗せないの判断を行なうことが出来たなら、結果は違ったものになっていたかもしれません。

 

時代は変わりました。会社は自分に都合の良い人材を育成するだけでは無く、社員ひとりひとりのキャリアパスと市場価値を高めることにも注意を向ける必要があるのだと感じています。

 

会社の中でどれだけ重宝がられようと、自分が高めたいと思っているスキルを向上させることにつながらないのであれば、若い人たちの心はますます会社から離れて行ってしまうのではないかと思います。