和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

評価と生真面目

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鬱の蔓延

毎年この時期になると、30代半ばにメンタルの不調で仕事をしばらく離れたことを思い出します。特に今年は同じ部署で病気休職中の同僚がいるため、その彼への気がかりも募ります。

 

私は幸いにして約半月で職場復帰しましたが、今にして思えば、精神的なダメージと言ってもかすり傷程度のものだったのでしょう。とは言うものの、私としてはあの時に休んでおいて良かったと考えています。円形脱毛症や胃潰瘍などのストレスのサインが表に現れていればすぐに対処出来ますが、内面の不具合はその深刻度が外からは分からず、本人が無理をし続け周囲も気がつかなければ、事態は取り返しのつかないところまで悪化してしまうこともあり得ます。

 

それにしても、ここ数年、勤め先の病気休職者の増え方は著しいものがあります。もちろん、人事発令で病気休職となっている全員がメンタルの不調ではありませんが、別の部署の、しばらく顔を見ない社員の様子を尋ねると、鬱症状を患って休んでいる場合が多いのは確かです。

 

心の病自体は伝染しませんが、それを引き起こす環境的な条件が存在し、職場に蔓延すると言うのは馬鹿げた妄想では無い気がします。

 

負荷は減れども

ひと昔前に比べれば一般社員の残業は減少していて、量的な意味で仕事の負荷は軽くなっているはずなのです。むしろ、私としては、仕事のしわ寄せを受けている中間管理職の方を心配しています。業務が軽減されていることに反して精神的な不調を訴える社員が増えていると言うのは不思議な現象です。

 

私は、その原因のひとつは、目標管理や評価制度ではないかと考えます。

 

新年度の始め、上司と面談して業務目標を設定し、中間面談、期末面談を経て達成度の自己評価と上司評価をすり合わせて、それを基にして人事考課を行ないます。

 

この目標設定が曲者で、本人のやる気があってもあまりにハードルを高くしてしまうと期末の評価は悪くなってしまいます。逆に簡単な目標を並べてしまえば本人の成長を促すことにはなりません。私が管理職だった頃は、部下と一緒になって設定する目標に悩んだものでした。

 

また、上司としては別の悩みがありました。ある部下からは、低い評価でも構わないので“楽な”目標にしてほしいと頼まれました。昇進には興味が無いので、仕事で悩むようなことにはなりたくないと言うのが彼の理由でした。また、別の部下は、“今年は昇格がかかっているので、Aが取れる目標にしてほしい”と、これまた無理難題を要求する始末。業務目標はスキルアップのためで、昇給や昇格は後からついてくるものなのですが、私の考えは会社の中ではむしろ曲論なのかもしれません。

 

評価に振り回されない強さ

昨年、精神的な不調で長期休養していた部員がいました。

lambamirstan.hatenablog.com

 

彼は職場復帰したのですが、その後一年持たずに再び休むことになりました。彼とは、昨年の復帰後に何度か会話をしたことがありましたが、話ぶりからも真面目な印象を受け、また、報告書の書き方を質問してきた時に見せられた案文から、几帳面な性格であることも分かりました。

 

復帰後の職場は、余計なプレッシャーのかからない部署で簡単な仕事を任せるのが定石です。彼の場合は、代わりがいないことを理由に、仕掛中の仕事が終わるまでの約束で元の職場につなぎとめておいたことが凶と出ました。彼の上司を非難するつもりはありませんが、本当に彼が“余人をもって代え難し”だったのか疑問は残ります。

 

業務の達成度を評価する際、当初の目標設定時に期待していた成果を上回らなければA判定になりません。そして、今の職場では、複数年連続して高評価を得られなければ昇格・昇進出来ない仕組みが出来てしまいました。前回の記事のとおり、複数年に亘って良い成績を残していなければ管理職の登用試験を受けることすら出来ません。

lambamirstan.hatenablog.com

 

学校の定期考査と違い、仕事の成果は自分の努力だけ何とかならない場合が多々あります。交渉事が上手く進まなかったのは戦略の問題では無く相手の問題かもしれません。部署異動で不慣れな仕事を任されたことが冴えない結果の原因かもしれません。あるいは、上司と反りが合わずに不当に評価を下げられた可能性もあります。

 

“期待を上回る”ことを期待され続けるプレッシャーだけでも憂鬱になってしまう社員もいると思います。挙句の果てに、自分の努力に結果が伴わず、その一年のおかげで実績の積み上げが振出しに戻るような仕組みの中で、高いモチベーションを維持するのは簡単なことではありません。

 

そのような目標管理と評価制度の仕組みが分かると、上司にA判定が取れるように直談判する部下が登場したり、逆に、最初からそんなレースには不参加を表明する部下も出て来たりするのです。

 

目標管理に圧し潰されて意欲を失い、休養が必要なほどに体調を崩してしまうよりも、会社の制度に迎合しない図々しさを持ち合わせている部下の方が楽しそうに見えるのは、私の目の錯覚ではありません。

 

評価は水物で、それに一喜一憂するよりもそこから離れたところで没頭できるものややりがいのあるものを見つけるのが健全な気がしますが、仕事にどっぷり漬かっているとそんな簡単なことも見えなくなってくるのです。