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異動と退職の季節

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定期異動

6月は異動の季節です。私の勤め先では、かつては、人事異動はその時々で必要に応じて行なわれてきましたが、数年前から、原則7月1日を人事の定期異動のタイミングとするようになり、それ以外の時期には大きな組織改編などの特段の事情が無ければ異動は行なわないことになりました。

 

元々は、20代から30代前半の若手・中堅社員に様々な業種の経験を積ませるために、2年程度のローテーションで部署替えを行なうことが目的でした。

 

以前は、同じ新入社員でも、ひとつの部署で長く“純粋培養”される者もいれば、ごく短期間にいくつかの部署を移らされる者もいました。そして、そのような異動のさせ方が社内で問題となりました。

 

純粋培養された社員は、限られた業務には精通するようになるものの、ある程度の年齢に達すると、他の部署への異動が困難になってしまいます。いわゆる“潰しの効かない”社員になってしまいます。後者は、広く経験を積むことが出来る反面、専門知識を深く習得する間もなく無く部署を渡り歩くことになるので、自分の“売り”に出来る分野を持てなくなってしまいます。

 

私は一時期、社内の人事委員会の委員を務めており、一斉定期異動の枠組みを決める際に議論に参加しました。今思えば、“枠組み”は委員会で揉む以前に、人事部ですでに上層部との間で根回しが済んでいたのだと思います。

 

元々、異動の頻度に差があることに対しての不平は、労働組合から出たものでした。その数年前より、入社3年前後の若手社員の自己都合退職者の数が急増し始め、労働組合が独自に退職者に聞き取りを行なったところ、社員の育成体制の不備や、学閥による囲い込みに対する不満を口にする者が多かったようです。

 

人事部は社内でも極めて保守的で、新しいことに取り組むことには非常に腰が重い部署です。そのため、中途採用で新しい血を入れるなどして改革を進めようとしても、自らを変えられずにいました。働き方の多様化を進めようとしてとん挫したのがいい例です。

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上述の人事委員会では、私を含め、社内のいくつかの部門の管理職が委員として参加していましたが、今回の件では、社員の志向に合わせたキャリアプランの構築、プランに基づいた公平な異動、社員からのフィードバックの必要性が主な意見として上がりました。

 

恐らく、会社と新入社員、あるいは中途採用者との間での仕事に対する考え方のミスマッチが無ければ、これほどまでに若手・中堅の退職者が増えることも無かったのかもしれません。

 

定期人事異動は、表向きは組織の活性化と言うお題目の下に進められました。対象者は若手・中堅ばかりで無く、一部例外は認められたものの、ベテラン社員も含まれました。会社としては、表向きの目的とは別に、若手・中堅社員の離職率の低減を目指していたのでしょうが、残念ながら、その目的は叶えられずに現在に至っています。

 

シャッフルで弱まる組織

定期的な人事異動により幅広い業務経験を積ませ、本人に最適な職種を見つけること。会社の題した答えは、今の若手社員には“受け”が良くありません。思うに、今の若い世代で、一つの会社で勤め上げようと考えている人は多く無く、むしろ、自分の希望する専門分野の知識を習得し、自らの市場価値を高めてキャリアアップを目指す人の方が主流になってきていると感じます。

 

2年から3年おきに部署を異動することは、メリットとしては、新たな目標が出来、達成感を味わうことにあるのかもしれませんが、専門知識を深めることは難しくなってしまいます。

 

また、ほとんどの社員が定期的にシャッフルされてしまうと、組織としての知見の蓄積も思うように進みません。

 

私の目から見ても、専門集団の弱体化は顕著で、気がついてみたら、自分の下の人間はほとんどがジェネラリストになってしまっていました。“ジェネラリスト”と格好良い呼び名を使いましたが、これはすなわち“何でも屋”です。

 

私自身、“何でも屋”としてこれまで仕事をしてきました。私の場合は、干されたり拾われたりしながらの会社人生でしたので、会社が私に様々な経験を積ませてやろうと考えたわけではありません。ともあれ、何でも屋集団では仕事が捗らないことは、私が一番痛感していることなのです。いろいろなことを広く浅く知ってはいるものの、実務に長けたと言う域までは達しておらず、いざと言う時には専門知識を有する者のサポートを仰がなければ二進も三進も行かなくなってしまいます。

 

また、純粋培養されたベテラン社員が今まで経験したことの無い分野を任されるのも、本人にとっても会社にとっても良いことはありません。

 

定期人事異動が始まったばかりの頃に、私の部署に異動してきたベテラン社員がいました。彼には課長として仕事を任せましたが、これまで管理部門の仕事一筋だった彼にとって、海外の取引先との折衝も英文の契約書も初めて尽くし。部下の管理まで手が回りません。入社二十数年経って、新入社員と同じスタートラインに立ったのも同然の状況に置かれてしまいました。間もなく50歳に差し掛かる彼にとって、長年慣れ親しんだ仕事を離れたことに加えて、不慣れな仕事をこなさなければならないのは、大変な重荷でした。

 

彼の頑張りは傍で見ている私には痛いほど伝わってきましたが、結果が伴いません。結局、私は彼と、彼の元居た部署に事情を説明して、異動後一年経ったところで、彼に元の部署に“復帰”してもらうことにしたのです。

 

社内イントラネットの人事発令を見て、ふと、昔のバタバタ劇を思い出しました。7月1日付での異動者の名前が長く連なるその前、6月30日付のところには、決して少なく無い数の自己都合退職者の名前が並んでいました。