和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

教える立場から教えられる立場へ

f:id:lambamirstan:20191026045002j:plain

手抜きか合理化か

私は過去の記事で、若い頃の話を頻繁に持ち出してきましたが、これは私が歳を取った証だと思います。

 

勤め先の若手や中堅社員に仕事の段取りを説明する時なども、つい若い頃の経験を引き合いに出しますが、しばらく後になって、「そんな昔のことを話してもあまり説得力が無いなあ」と反省することも多々あります。

 

確かに、いろいろな経験を積むためにはそれなりの時間が必要であり、短期間でどんなに座学で知識を詰め込もうと、経験の蓄積には勝てないこともあります。思うに、私も含め年齢の高い人間の中には、知力・体力では若い世代に太刀打ちできないため、無意識のうちに自分の弱点を経験で裏打ちしようと考えている人がいるのかもしれません。

 

ところが、経験を積んで身に着けたスキルや知識、仕事への取り組み方や、もっと根本的な仕事観など、かつての“あるべき”姿が今の時代に合っているとは限りません。むしろ、利の無いものに変質してしまっているものだってあります。

 

いつの頃からか、部下との面談などの場面で、私が意識的に聞き役に回ろうとしていたのも、相手の気持ちを良く理解するため以外に、自分の考えが的を射ているかどうか逡巡するための時間稼ぎをしていたのかもしれません。

 

私が若い頃に、 - こうやって、また昔の話を始めてしまいますが - 当時の上司が私に、“速記”を学ぶように勧めました。会議や交渉での記録を正確に速やかに行なうためと言う理由でした。

 

当時は、まだ業務用のパソコンが部に1台か2台割り振られている程度で、会議などの議事録は手書きしたものを部署の事務補助の女性にタイプしてもらっていました。

 

私は何となく上司の指示が無駄に思え、ある交渉先との面談の際に、レコーダーで会話を録音しました。当時会社にあったのは旧式のカセットテープレコーダーでした。当日の就業時間後に、何度もテープを巻き戻しながら面談録を作成し、翌朝上司に提出したところ、酷く怒られたことを覚えています。

 

上司が怒った理由は二つあって、一つ目は先方の了解無く会話を録音したこと、二つ目は私が手抜きをしたと言うことでした。

 

一つ目については、確かに上司の言うとおりでした。現に、今でも交渉の席で会話を録音するのはNGです。

 

しかし、二つ目については、私としては納得がいかず、上司に食ってかかりました。手抜きでは無く合理化だと言う私の主張は一蹴され、上司は、勉強しろの一点張りでした。

 

何分、私は当時、自他ともに認める悪筆の持ち主で、自分で書いたメモが自分で読めないことがよくあり、会議などのメモを取るのが嫌で仕方ありませんでした。

 

結局私は、上司ばかりでなく、先輩からも読める字を書くように“懇願”されて、独学でペン習字を勉強し始めたのです。

 

このスキル、いつまで使える?

それよりも、私は、部で書類の清書を一手に引き受けていた先輩の女性社員からブラインドタッチを習う方に時間を割きました。インターネットが一般的になる以前の話です。その先輩からタイピングの本を借り、古道具屋で中古のタイプライターを買って、単身寮の自室でタイピングの練習に励みました。

 

ペン習字は半年足らずで挫折したものの、タイピングは結構“ハマって”しまいました。当時練習していたのは「かな入力」でしたが、その後、英文タイプの必要が増えたため、ローマ字入力を勉強するようになりました。

 

今、上の娘がタイピングの練習をしているのですが、練習用のソフトは飽きさせないようにうまく出来ています。もし、当時こんな練習ソフトがあったら、私は寝る間も惜しんで練習に励んだことでしょう。

 

それはさておき、今になって何故タイピングの練習をしているのか、娘に聞きました。物心ついた時には家にパソコンがあり、学校の課題のほとんどをパソコンでこなしていた娘です。

 

彼女曰く、大学時代のレポートは携帯電話で作成していて、フリック入力は出来ても、キーボードでの“早打ち”が出来ないこと。会議の席で携帯電話を使ってメモを取っていたら上司に怒られたそうです。娘が上司に食ってかかったかどうかは怖くて聞けませんでしたが、蛙の子は蛙だと思いました。

 

私は会議のメモ取りのやり方までは口出ししないので、部署の若手社員が直属の上司とどのようなやり取りをしているか関知していませんでした。しかし、かつて上司に盾突いた自分としては、あまり自らの経験を基に若い人に忠告するのには戸惑いを感じてしまいます。

 

ともあれ、今私たちが使っているキーボードがいつまで現役で残っているかは分かりませんが、まだ当分はお世話になることでしょう。娘の努力が無駄にならないことを願うばかりです。

 

古き良き時代を懐かしまない

冒頭に書いたとおり、若い頃の知識や経験が、今の時代には何の役にも立たないことが多々あります。古き良き習慣でも、虚礼だとして廃されたものがあります。

 

外国出張一つ取っても、かつては、航空券のリコンファームを忘れれば、飛行機に乗れないこともありました。現金を持ち歩くのは危ないからと、出張前には銀行でトラベラーズチェックを用意することが必須でした。

 

若い世代になればなるほど、グリーティングカードや年賀状の習慣は無くなっています。人と人との距離も変わってきます。

 

昔はこうだったと、自分の古き良き時代をどんなに大切に思っていても、時代の波に抗うことは出来ないのです。

 

むしろ、波に敏感な若い人々から教えを乞うのが、私も含めた上の世代が時代に取り残されないで生きて行く術なのだと思います。