和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

ツバメの子育て、人間の子育て

f:id:lambamirstan:20191026045002j:plain

親子の距離

「ツバメはひと夏に2回子育てをすることがある」 

知人からその話を聞いたのはいつのことだったか思い出せませんが、今週、妻の通院の付き添いで最寄り駅に立ち寄った時、先月若鳥が巣立って“空き家”になった巣に、再びつがいのツバメが戻ってきたのを見つけました。

 

ひと夏で二度の子育て。親鳥の逞しさと、その翼の庇護からわずか数週間で飛び立っていく若鳥。自分の境遇と勝手に比較して羨ましがる私に、妻は、「他人と比べるのはよしなさい」と、私の口癖を投げかけます。

 

上の娘は反抗期無くここまで来ました。今年で2度目の年女を迎えるので、まさかこれから反抗期を迎えることも無いでしょう。海外駐在中、言葉の壁や現地校の授業に馴染めずに一時期不登校になってしまいましたが、その後は親の心配をよそに大いに学生生活を謳歌していました。

 

一方、下の娘は小さい頃から外向的で好き嫌いがはっきりしている性格でしたが、それが、海外での生活で“増幅”された感がありました

 

彼の地の学生生活で、個性を尊重してくれる環境にどっぷりと浸かった娘は、帰国後に編入した学校で見事に浮いた存在になってしまいました。担任の先生とも衝突を繰り返しました。同じ帰国子女の友人が数人いましたが、結局、卒業までクラスの輪に溶け込むことが出来ませんでした。

 

同調圧力に屈せずに自分の考えを貫き通した娘を、さすがと思う反面、今の大学生活やアルバイト先での様子を聞くにつけ、どこまで“我が道を行く”スタイルが通用するのか、親としては一抹の不安を抱えているところです。

 

そんな下の娘ですが、家の外での“衝突”がストレスにならないはずは無く、それを母親に甘えることで解消して来たのではないかと思っていました。また、妻としても、上の娘があまり手がかからず、親に依存するようなことがそれほど多くなかったため、自分を頼ってくる下の娘を一層可愛く思っているのでしょう。

 

しかし、私の目から見ると、この二人の“一卵性親子”的な距離の近さに、ぼんやりとした不安を感じていました。

 

尽きない心配

よその家の親子関係を垣間見る機会が無いため、果たして私たち親子が普通なのか異常なのかは分かりませんし、比較すること自体意味は無いのですが、特に妻の、娘に対する気のかけようは、心配性を通り越して“心配症”になっています。

 

それは今始まったことでは無いのですが、病気で気弱になったことと、巣ごもり生活のために他に気持ちを向ける対象が無いことから、娘への思いが膨らんでいるようです。

 

夕食後、体調が悪く無ければ、妻は娘と一緒に“業界研究”をし、インターンシップの応募先を探します。そして、寝床に就いた後も、娘が就職できずに引きこもりになってしまったらどうしようと考え、夜も眠れなくなってしまうと嘆きます。

 

親心を知っている子

私は妻に、上の娘の将来は然程気にしないのに下の娘を心配し過ぎであること、悪いことばかり考え過ぎるのは良くないことを話しましたが、それで妻の心配が解消されることはありませんでした。

 

ある時、私は妻と娘がいる場で、就職活動は親に頼らずに自分で行うように釘を刺しました。不満な表情を浮かべる妻の横で、娘はニヤニヤしながら夫婦の様子を見ていました。

 

妻のいないところで、娘はこう言いました。「ママは家にいるとやることが無いのだから。心配事が無くなったら、暇過ぎて死んでしまうかも」。娘は、親であっても自分の進路に口出しして欲しくないけれども、妻の“趣味”につきあってあげているのだと笑います。これが、彼女なりの親への気遣いなのでしょう。

 

以前、同じく就職活動を心配する妻に対して、上の娘は、口出ししないようピシャリと言い放ちました。その時の妻の落ち込んだ様子を下の娘は見ていたのだと言います。

 

他人の気持ちを気にすることなど無いと思っていた娘が、親心を斟酌するなど、私は想像もしていませんでした。親がその将来を心配していた子どもは、いつしか、こちらのことを心配する立場へと成長していたのだと知りました。

 

手塩にかけて、と言うほどに全てを注いで育てた娘たちではありませんが、親に気遣いができるようになったと言うことは、最早親としての役割は終わったのだと、勝手に解釈しています。

 

娘たちを育ててきた妻と私。子育てが大変だったことはそのとおりなのですが、苦労したと言う思いよりも、楽しかった記憶の方が勝っていると思います。およそ20年を経て、増えた白髪としわの数は親に与えられた勲章です。そして、振り返ってみれば、ツバメの子育てのようにあっという間の出来事でした。