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働き方の選択肢(1)

一括転換

私の勤め先では数年前の一時期、働き方の多様化を図ろうとして、“ダイバーシティ推進グループ”を立ち上げました。キャリア採用で獲得した女性幹部社員をリーダーに「ワークライフバランス」、「シルバー人材の活用」、そして「女性社員の活躍支援」を推し進めようとしましたが、旧態然とした会社の様々な抵抗に遭い、当のリーダーが失意のまま退社したのと当時にグループも消滅してしまいました。

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三本柱のうち、曲がりなりにも実施できたのは一般職の総合職への一括転換でした。これは「女性社員の活躍支援」の端緒を開く施策のはずでしたが、中途半端に終わったため、かえって女性社員の多くから反感を買う結果となりました。

 

当時の会社では一般職は女性しかいませんでした。一般職は総合職のサポート要員として、定型的な仕事に特化し転勤も無いため、そのような働き方を志向する女性にとっては好ましいポジションだったのだと思います。ただし、一般職も本人が希望し、試験に合格すれば総合職への転換が可能であるため、特に就職氷河期には、狭き門を避けて一般職で入社後に総合職への転換を目指す女性が増えました。

 

そのような様々な思いを抱いている女性社員を一括して総合職に転換するのは、働き方の多様化とは真逆の対応なのですが、当時の会社には女性の幹部社員が2名しかおらず、その数を増やすには裾野を広げる必要ありと推進グループのリーダーは考えたのでしょう。

 

当時私が属していたHR委員会では、一般職を総合職に統合することに反対したのは私を含めて少数派でした。少数派からは、上司推薦無しで誰でも転換試験を受けられるような公平な機会を与えることで妥協点を探りましたが、人事部は「数年後に女性幹部社員を二桁にする」と数の目標しか頭に無い様子でした。

 

ところが、総合職への転換を希望する一般職の社員は思いのほか少なく、残念ながら人事部の当ては外れてしまいました。

 

それでも動き出してしまったプロジェクトは止まりません。働き方の多様化への対応として、同じ時期に転勤や駐在については“本人の意思を尊重”するとの方針も決定されましたが、一般職の総合職転換を促すための懐柔策だったのではと思っています。

 

一般職を廃止した段階で多様化プロジェクトがとん挫してしまったため、総合職並に給料を引き上げられた一般職マインドの女性社員が増えただけに終わりました。中には気持ちを切り替えて、総合職として部署の期待に応えようと努力している者もいたと聞きますが、それは例外でした。

 

裾野は広がっても

それから数年経った今、女性社員の幹部社員への登用が進んでいるようには見えません。当時、転換試験をパスして総合職になった女性社員は数えるほどしかいませんでしたが、彼女たちは人事部に不満を訴えました。

たしかに、女性の活躍の場を広げること自体には私は賛成ですが、男女間の格差を埋めるための方策として総合職への一本化を行なったことは、努力して総合職のポジションを手に入れた人たちからすれば、悪平等以外の何物でもありません。今までの苦労は何だったのかと、人事部に怒鳴り込んだ女性社員の中には会社を去って行った者もいます。

 

ダイバーシティ推進グループのリーダーは、女性の立場から同性の社内での地位向上を目指そうと努力をしましたが、そこには、女性は皆活躍の場を欲しているとの思い込みがあったのでしょう。そして一方で、苦労して総合職転換を勝ち取った女性社員の努力の価値を貶めてしまったことに気がつきませんでした。

 

以前、別の記事でも触れましたが、最近の傾向として、男女問わず管理職への昇格を忌避する社員が増えつつあります。彼ら・彼女らは、昇格よりも自分のライフスタイルを大切に考えているようです。

 

それは、総合職に一括転換させられた“元”一般職にも言えることで、数字の上では女性総合職は増えても、幹部候補として会社が期待出来る人材を増やせたことにはなっていません。

 

結局、役職の総体的な価値が若い世代になるほど低くなる中で、総合職の数を増やしたとしても、必ずしも幹部候補を増やすことにはならないのです。働き方の多様化に対応するには、入社の段階から、管理職を志向する“マネジメントコース”を別建てで設ける必要があるのかもしれません。他方、管理職を希望しない社員には“フェロー”のようなスペシャリストとして会社に貢献出来る道も必要なのだと思います。

 

「女性社員の活躍支援」 - 働き方の多様化を考えれば、女性社員の社内での地位を相対的に高めるだけでなく、文字どおり多様な働き方が出来るような環境を整えることの方が大事だったのかもしれません。これは女性に限った話では無く、男性社員にも同じことが言えます。組織が上手く回るには、それぞれの階層で人材が充実していなければならず、管理職だけでは会社を運営することは出来ません。会社が多様な働き方の選択肢を提案出来ることが、社員にとっての活躍を支援することになるのではないかと考えます。(続く)