和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

働き方の選択肢(2)

管理職減らし

どこの会社でも役位が上がればポストは減ります。私の勤め先も例外ではありません。かつては、幹部社員は本社のポストに“空き”が無ければ、子会社や関連会社の役員や管理職への道が残されていました。

 

ところが、ある時期、不採算事業からの撤退や子会社・関連会社の整理を断行した結果、余剰の幹部社員の受け皿が大幅に減少しました。ポストが減ったからと言って、引受先の無い管理職を一斉に降格させることは出来ません。

 

そこで、会社は、“フラットな組織作り”を目指すと言っていた言葉とは反対に、部長の下に「担当部長」や「統括リーダー」と言った役職を急造しました。併せて幹部社員の登用を厳格化することによって、管理職の総数を減らそうとしたのです。

 

それまでは、一定の年齢に達すれば幹部社員になれた会社でした。同期の中で出世が遅れると言っても一年あるいは二年程度のことで、ほぼ横並びの昇格が約束されていましたが、幹部社員の登用試験を外部コンサルタントに委託してから状況は一変しました。

 

以前の記事で書きましたが、幹部社員登用試験を導入した初年度は、候補者二十余名に対して合格者数名、全員女性社員でした。試験の内容がうちの会社に向いていなかったのか、候補者が試験に向いていなかったのかは定かではありませんが、外部のコンサルタントが行なった試験なので、それなりの公平性は担保出来ていたはずです。

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最終的には、上層部からの圧力と人事部の取り計らいで合格者の水増しが行なわれたのですが、それでもその年以降、幹部社員への昇格は簡単では無くなりました。

 

また、受験資格も – 猶予期間を設けたものの – 過年度の人事考課の評点で足切りが行なわれたので、登用試験を受けることすら出来ない社員が出てきました。

 

年功序列から成果主義へ”。受け入れざるを得ない時代の流れとは分かっていても、一方で、以前から問題となっている人事考課の恣意性を排除することが出来ない会社は、それから現在までの間に有能な若手や中堅社員の多くを失うこととなりました。

 

割を食う有能者

自己都合退職者を対象に行なわれる“出口面談”では、転職理由や会社を良くするための提言などについて人事部が聞き取りを行ないます。そこで退職理由として多く聞かれるのは、会社の将来性と評価制度の不透明感でした。

 

特に後者については、職場からも同様の声が出続けているにも拘わらず改善される兆しの見えない問題になっています。

 

幹部社員の登用は、第三者による“公正な”試験で判定するのに対して、社内の人事考課は相対評価であるため、どんなに有能な社員でも、部署内の同じ役位に自分以上に評点の高い社員がいれば、“相対的に”評価は下がってしまいます。しかも、その評価方法が公正とは言えないところに根深い問題があります。

 

評価方法の公平性の問題は年功序列の時代から続いているものですが、幹部社員の登用試験の受験資格が厳格化されてからは特に“酷くなった”気がしています。

 

上述のとおり、登用試験の受験資格は過去の一定期間の評点次第です。しかも連続して好成績を残しておく必要があります。例えば、ある年の成績が振るわなかった場合、 - どんなに有能な社員でも、結果を残せない年もあります - もう一度好成績の積み上げをやり直さなければならないのです。

 

それが今の制度なのですが、“上司が目をかけている”部下は例外です。成績の好不調に関わらず、人事考課は高い評点を維持して、ストレートで幹部社員登用試験を目指すことになります。そして、その割を食う“相対評価の犠牲者”は少なくないと思います。

 

会社は、人事考課や幹部社員の昇格の仕組みに関して、今のところ見直しを行なうつもりは無いようです。自己都合退職者から聞かれる“評価制度の不透明感”については、退職者だけでなく、会社で働いているほとんど誰もが感じているのではないかと思います。

 

幹部社員試験の受験資格を厳格化し過ぎてしまったために、十分に管理職としての職務に耐えられる人材が試験を受けられない事態は、そのこと自体、上司が好ましいと思う部下を恣意的に引き上げる仕組みをより強化したに過ぎない結果となりました。

 

会社としては、余剰の幹部社員は自然減に任せるしかなく、新規登用者の数をコントロールすることで幹部社員の総数を抑えるつもりなのは分かりますが、評価制度も含めて幹部社員への道は年功序列の時代以上に“出来レース”の様相が露骨になっています。

 

選ぶ側から選ばれる側へ

自分が適正に評価されていないと感じ、幹部社員に登用される芽が無いと悟った社員は、早々に社外に活躍の場を求めて動き始めます。自分に合った働き方を求める若い世代の目の前には幅広い選択肢が用意されています。ひとつの会社にしがみつく理由は無くなったのです。

 

また、転職者あるいは潜在的転職者は、転職支援サイト等のコミュニティで情報を交換します。そこでの会社の評判は、やがて新卒の就活生にも影響を及ぼすこととなります。

 

人を大切に扱わない会社はやがて誰からも相手にされなくなるのでしょう。新卒採用者の定員割れが起きるのもそう遠い話ではなさそうです。