和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

中堅社員の休職

中堅社員の休職

年明けから年度末の三月までの間は、子会社の決算や予算策定でどこの部署も忙しく、それに伴って職場の“鬱度”も高まります。若い頃の私が精神的に不調を来たしたのもこの時期なので、個人的に春先はあまり好きな季節ではありません。

 

私のよく知っている中堅社員が病気休職になりました。私がまだ部長だった頃に、次期課長の候補として引き抜きに失敗した社員です。

 

彼とは今まで一度も同じ部署で仕事をともにしたことはありませんでしたが、単発のプロジェクトで顔を合せることが度々ありました。仕事に対する意欲や人柄もさることながら、私はチーム・ビルディング長けた彼にとても助けられました。

 

兎角、期間限定のプロジェクトの場合、複数の部署からなる混成部隊をひとつにまとめるのはそれだけでひと仕事です。彼は指示されるまでもなく、プロジェクトの工程の素案作りから工程管理までをそつなくこなし、なおかつ自分の担当の仕事も抜かりなく片づけていきます。

 

私は彼から多くのことを学びました。彼の持ち前のセンスを見せつけられた私は、潔く負けを認め、彼をプロジェクトマネージャーに推しましたが、担当役員は、彼がまだ幹部社員でないことや若過ぎることを理由に私の提案を却下しました。

 

また一人

私が管理職を降りてからは、彼とは疎遠になってしまいましたが、社内の噂話で彼が幹部社員の登用試験に落ち続けていることは知っていました。その一方で、彼の仕事ぶりに関しては良い噂しか耳にしません。

 

幹部社員の登用試験は外部のコンサルタントに丸投げです。仕事では文句のない成果を上げていても、幹部社員としての素質が十分に備わっていないという評価。それも自分の上司ではなく、社外の、自分の仕事ぶりを知らない者からの“ダメ出し”です。それが三年間繰り返されてきたのです。

 

彼の病気休職の原因が“受験失敗”だけとは限りませんが、気力を失ってしまった要因にはなっているような気はします。病状は深刻なのだと聞きました。

 

彼と一緒に仕事をしたことのある私は、彼を有能な人間だと思っています。私はもはや大きな仕事を取り仕切る立場もなく権限もありませんが、もし、新しい仕事に取り掛かるとしたら、彼の助けを求めたことでしょう。

 

有能な人材がまた一人消えていこうとしています。