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働き方改悪

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正常化の動き

新型コロナの新規感染者数が急減したことで、私の勤め先では勤務形態を見直す動きがあります。具体的には、まず1週間あたりの在宅勤務日数を制限し、段階的に従来型の勤務形態に戻そうと考えているようです。そのような“正常化”には社員からの抵抗も予想され、社内の上層部では落としどころを探る議論が続いています。

 

先週、部内で在宅勤務についての聞き取りがありました。私の部では、私以外に、育児休業から復帰した女性社員、自宅が遠距離の社員の2名がほぼ完全在宅勤務で仕事をしています。

 

現状、社員は在宅勤務と出社を任意で選択出来ますが、一般社員は総じて在宅勤務が主流、幹部社員はほぼ出社、と言う状況は以前と変わりありません。

 

部内の聞き取りの前々日だったと記憶しますが、育休明けのOさんが私に尋ねました。彼女とは毎朝のコミュニケーションタイムで一緒なのと、事情は違えどもお互いに在宅勤務の恩恵を最大限に享受していることから、Oさんとしては私の考えを聞きたかったのでしょう。

 

Oさんは、現在、お子さんの保育園の送迎や家事全般を行なっていると言います。別の会社に勤めるご主人はすでに育休期間を終えて職場復帰していますが、緊急事態宣言解除後は原則出社しているとのこと。Oさんは、今の働き方が普通になってしまい、在宅勤務の日数が制限されることによって生活パターンが変わることに不安を感じている様子でした。

 

聞き取りの目的

部内の聞き取りは、在宅勤務での業務上の支障について各部員から事例を集めることが目的でしたが、一般社員からは特に問題は指摘されませんでした。それも当然で、在宅勤務が制度として導入された昨年の4月以降、リモートワークを行なうための様々な対策が講じられてきたのです。

 

それまでは、稟議書の回付や入出金伝票の起票・承認、その他、出社しなければ行えない業務が多数存在しました。当時部長だった私も週に1~2回の出社が避けられなかったのは、承認印が必要な書類があったからで、そのために片道1時間かけて通勤していたのでした。

 

それが、この一年あまりの間にシステムの見直しを行ない、稟議書や伝票の起案・起票、承認が在宅で可能となりました。ウェブ会議も当たり前となり、無駄な打ち合わせや長時間の会議が無くなったことにより、“想定外の”業務の効率化が進んだのです。

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また、私個人としても、通勤のための時間が不要になったことで、ゆとりをもって家事を行なうことが可能となり、また、家族や自分のための時間も増えました。私と同じようなメリットを感じている社員は少なく無いと思います。

 

私は、在宅勤務導入により、不都合よりもむしろ改善されたことの方が多いとコメントしました。残業時間、有給休暇の消化率は、コロナ前よりも良くなっています。

 

これは、管理部門が社内承認システムを予算外で改変したことを正当化するために、つい最近になって公表したデータが物語る事実で、社員であれば知らない者はいません。在宅勤務による業務の効率化は数字となって表れているのです。また、毎朝のコミュニケーションタイムにより、事務所で勤務していた時よりも連帯感が強まったとも言えます。逆にデメリットは見当たりません。

 

ところが、それは部の上の人間にとっては不都合なことのようでした。彼らは何とか出社することのメリットを、部員の口から引き出そうとしている様子でした。

 

私は自分の後任の部長に、部員に答えさせる前に幹部社員から出社することのメリットと在宅勤務のデメリットを挙げるように促しました。

 

直接対話に勝るものは無い。取引先なども段階的に在宅勤務から出社に切り替え始めている。在宅勤務は就労管理に問題がある。部長は他にも何か言っていましたが、在宅勤務の決定的な問題点を挙げることは出来ませんでした。挙句の果てに、在宅勤務を志向する部員は、自分たちの都合しか考えていないと、半ば苛立ちを隠せずに言い放ちました。

 

これで、上の人間の考えが分かりました。結局、“聞き取り”とは言うものの、在宅勤務を段階的に制限するための形式的な儀式だったわけです。

 

出社が仕事の第一歩

進歩的な会社は、コロナ禍以前より、勤務場所のサテライト化やワーケーションの導入など、働き方の選択肢を広げる努力を行なっていましたが、私の勤め先では、そのような取り組みは“時期尚早”と、検討すらしてきませんでした。また、在宅勤務のための環境整備には時間と費用がかかることも言い訳にしていました。

 

ところが、幸か不幸か、コロナ禍の長期化が危ぶまれる中、リモートワークのための環境を整備に着手せざるを得ない状況になったのです。

 

そして、その環境整備は会社が言うほどに時間はかからず、しかも、一般社員は整備された新しい環境の中で、問題無く仕事をこなしているのです。

 

在宅勤務により働きやすくなった社員としては、折角手に入れた好環境を手放したくありません。在宅勤務で効率的な業務が行なえることが分かったにも拘わらず、従来型の働き方に戻そうとする会社の意図は私には分かりません。出社することが仕事の第一歩とは、最早時代錯誤を通り越している感があります。

 

会社のトップが旧態然とした考え方から抜け出せないにしても、中間管理職は自分たちの部下の思いを理解出来るはずなのですが、経営陣と社員との間に対立構造が出来ると彼らのほとんどは、あちら側につく傾向があるようです。

 

在宅勤務は束の間の夢だったのかもしれません。