和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

人生の原動力

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気の置けない相方

私は先月から、昨春定年に伴って嘱託社員となったMさんとペアで仕事をしています。これまでペアを組んでいた若手社員の転職後、育成すべき後進が補充される目途が立たず、他の部署からMさんに異動してきてもらいました。

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元々技術職のMさんは、これまでの経験から入札関連の契約に精通しています。私が査読中の契約書を引き継いだのですが、苦も無く読了し加除修正までしてもらい、頼もしい相方が出来たと喜んでいるところです。

 

Mさんとは1か月あまり仕事を共にしてきましたが、私がずっと在宅勤務を続けているため、まだ、直接会って話をしたことがありません。Mさんに感謝していることは、リモートでの打ち合わせの際に、顔出しOKなことです。現状、打ち合わせをする相手の多くが顔を見せてくれず、声色だけで相手の様子を探るとなると、非常に疲れを覚えます。その点、モニター越しとは言え、Mさんとは顔を見ながら肩の力を抜いて話が出来る間柄になっています。

 

ところが、せっかくチームの体制が整ったタイミングを見計らったように、仕事が入って来なくなりました。今月に入り、いくつか仕掛中だった新規の案件が滞り、私の役割は開店休業状態になってしまいました。もちろん、過去の契約書の読み返しや、アーカイブの整理など、仕事は探せばいくらでも見つけられるのですが、やや拍子抜けしています。

 

午前中の仕事のルーティンは、Mさんとの業務打ち合わせと、部内の他のセクションの社員とのコミュニケーションタイムです。

 

現状、急ぎの仕事が無いため、Mさんとの業務打ち合わせはしばらくお休みにしています。Mさんとはコミュニケーションタイムで話が出来るので、それでも問題はありません。

 

さて、コミュニケーションタイムですが、Mさんと私の他、技術部門と庶務サポートの社員4名が加わり毎日30分程度の会話を楽しみます。最初の頃は持ち回りで誰かが“ためになりそうな”話をしていたのですが、そのようなネタも尽き、最近は井戸端会議の場になっていました。

 

生きる糧

そんな朝の息抜きの時間でしたが、先日、Mさんがしてくれた話が心に引っかかりました。

 

Mさんは、入社以来技術畑一筋で、学生時代に専攻していた専門分野の研究を続けていました。Mさんにとっては、研究こそ生きがいであり天職でした。研究職時代は、時間が経つのを忘れて仕事に没頭して来ました。数日がかりの実験を行なっている最中は、会社に寝袋を持ち込んでの作業も珍しく無かったと言います。それが苦にならなかったのは、自身が本当にやりたかったことに没頭していたからです。

 

ところが、会社の採算性に寄与しないとして、Mさんの属していた研究部門は廃止となりました。Mさんが40代半ばの頃の話です。会社を移ってでも研究を続けたい気持ちと、まだ幼いお嬢さんのことを考え安定した収入を維持しなければならないと言う気持ちに挟まれ、結局、Mさんは後者を選びました。

 

Mさんは安定と引き換えに天職を失いました。定年までいくつかの部署を転々としましたが、新たに打ち込める仕事は見つけられなかったと言います。その時々に与えられた役割に関心を持とうと精一杯努力しても、専門分野の研究をしのぐほどの仕事にはついに巡り合えませんでした。

 

かと言って、プライベートでは趣味と呼べるようなものも無く、数年後に完全に仕事を離れたら何をしたらいいのか途方に暮れていると言います。

 

Mさんは話の終わりに、今の仕事は嫌いではないが自分を捧げるほどの情熱は湧いてこないこと、今となっては、仕事以外に打ち込めるものをひとつやふたつは持っておくべきだったことを付け加え、若い人たちは使える時間がたくさんあるうちに夢中になれるものや生きる糧を探してもらいたいと言いました。

 

何故Mさんが朝の井戸端会議の時間にこんな話をしたのか、私には解せませんでした。Mさんは、お嬢さんが大学を卒業するまでは働き続けたいと言っていましたが、その先、完全リタイア後のライフワークのようなものが見つからないことを本当に悩んでいるのかもしれないと感じました。

 

私は、かつて自分が世話になった大先輩が、病気で倒れた後、新たな趣味としてピアノを始めた話をMさんに伝えてみました。

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Mさんのような研究職の方であれば、別の研究対象や、コツコツ練習をするような楽器の演奏なども好きになれるのではないかと、私の偏見の入り混じった期待を込めて様子を窺いましたが、あまり気が乗らない様子でした。

 

やはり、生きがいは、誰かに押し付けられるものではありません。天職と呼べるようなものに巡り合えなかった私にとって、それが心に占める大きさを図り知ることは出来ませんが、Mさんには、人生の次のステージに向けて新しい原動力を早く見つけてほしいと思いました。