和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

年の瀬の退職者

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年の瀬の退職者

私の勤め先では、6月と12月がボーナス支給月になっています。ボーナスとは言うものの、実態は生活給の一部を取り分けているだけで、業績や個々人のパフォーマンスに連動したものとはかけ離れています。

 

それはともかく、ここ数年の傾向として、ボーナス支給月は自己都合退職者が多い月でもあります。ボーナスをもらってから会社を退職する – 極自然の考えです。会社の規程では、ボーナス算定の期間は前年度、すなわち前の年の4月からその年の3月までで、その算定額を6月と12月の二回に分けて支給する仕組みです。また、支給対象者はボーナス支給日現在の在籍者となっています。

 

ボーナスを受け取る権利があっても11月末で退職してしまうと12月のボーナスはもらえないので、12月のボーナスをもらってから会社を退職することを選ぶのが“賢い”タイミングとなります。

 

人材流出については、過去の記事で何度も触れましたが、この12月も例に漏れず、自己都合退職者や自由選択定年制度による退職者が多い月となりました。

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経営陣の無策を嘆く現場の声は、当の経営陣には届かず、慢性的な人手不足が解消されない中で、実務に携わっている社員の疲弊は募るばかりです。「人手が足りない」の声に対して、上からは「工夫しろ」と馬鹿の一つ覚えの指示しか下りてこないとなると、職場を去って行く社員を引き留めることも出来ません。

 

放っておいたら取り返しのつかなくなる問題でも、今日明日に対処しなければ立ち行かなくなるわけではありません。そのためなのでしょうが、問題を先送りして自分に降りかかる火の粉を払いのけることしか考えていないのが今の経営陣です。

 

魅力不足

私の元部下で、この12月末で会社を去って行く者が二人います。ひとりは、入社6年目のMさん。元々、発展途上国の開発支援の仕事を希望していたものの、希望する業種とは違う我が社に入社しました。しかし、彼女は自分の夢を諦めきれず、会社を辞めて海外の大学院で勉強し直して改めて自分の本当にやりたかった仕事を目指すと言います。

 

Mさんは、私の大学の後輩でもあり、入社後、まだ私の部下になる前から顔見知りでした。そのような経緯もあって、私はかなり前から彼女の思いを知っていて、いずれは会社を去って行くのだろうと何と無く想像していました。

 

そのため、昨秋に彼女から退職の相談を受けた時も驚くことはありませんでした。むしろ、自分の娘と言ってもおかしくない年齢の後輩の、思い切りの良い決断にエールを送りたい気持ちになりました。人事部は当然引き止めを行なったのでしょうが、口先だけの引き止めに応じるような社員は今や存在しません。会社は、彼女が本当にやりたかったこと以上の魅力をMさんに感じさせることが出来なかったのです。

 

Mさんの大学院入学は来年の秋なので、まだだいぶ時間があるのですが、彼女はそれまでの間、関連企業でのインターンシップに応募して知見を深めたいと言います。彼女の親御さんも娘の気持ちを尊重して最大限サポートしてくれるようなので、Mさんとしては心強いことだろうと思います。

 

即戦力の離脱

もうひとりは、中途採用で入社したAさんで、入社後の約半年間、私の部署で仕事を共にしました、前職では法務部門の仕事をしてきたのですが、業界の特殊性を学んでもらおうと、実地研修を目的として私の部署に配属となりました。

 

物静かなAさんでしたが、アフターファイブでの酒席では、自分の仕事に対する思いを熱く語る姿が印象的でした。

 

Aさんはその後、国内の法務部門に落ち着きましたが、仕事の方針に対する考え方の相違から上司との折り合いが悪くなり、関連会社に出向となっていました。

 

結局、Aさんは、五年足らずで別の道を歩むこととなりましたが、法務の人材が手薄の我が社にとってはとても痛い人材喪失だと私は思っています。即戦力を補充することは簡単なことではありません。部署の頭数を揃えるだけで済む話では無いからです。

 

穴の開いたバケツ

今の時代、考え無しに引き留めをするのは意味を成さないことで、そうなる前に社員のモチベーションを維持し高める方策を考えなければ、いつまで経っても人材の流出を止めることは出来ません。

 

穴の開いたバケツにせっせと水を汲んでいても、穴は自然と塞がるわけではありません。むしろ穴の数は増え、その大きさも次第に大きくなっています。

 

慢性的な人手不足は、組織の活力を直接的に殺ぐことにつながりますが、それ以上に、有能な人材の流出は、若手社員の不安を掻き立てます。

 

流出する人材の数が増えると言うことは、その後ろには、おそらく経営陣の想像以上の流出予備軍がいるはずです。彼ら・彼女らは、会社を去って行く同僚や先輩の姿に何を見るのでしょうか。