会社が病気になったら

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できない病の処方箋

以前、「できない病」のポスターの話を書きました。

lambamirstan.hatenablog.com

私の勤め先では、まだあのポスターが貼られています。評判が良くないため、総務にポスターを剥がすことを提案したこともありますが、そのつもりは無いようです。

 

人がいない、設備が無い、予算が無い。そうなると、やりたいこともできません。しかし、ポスターは言います。リソースが不足している中で、「どうすればできるのか」を考えるのがあなたの仕事だと。どれだけの社員がこの言葉を信じているのでしょうか。私の部署では、終始「知恵を出せ」と頓珍漢なことを言い続けている天下りの役員がいますが、そのひとりを除き、今の体制で何ができるかを知らない者はいません。

 

コロナ禍で、どこの国の経済もスローダウンしている中、新しいことを始めようとしても限界があります。私の部署は海外事業、とりわけ新規事業の開拓が仕事ですが、どの国のビジネスパートナーとも今は本格的に仕事の話を進められる状況にありません。

 

また、慢性的な人手不足から、手広く案件を発掘することもできません。人手が足りないのに、無理にあれこれと新しいことに手を出せば、どれも中途半端になってしまい、まともな成果を上げられなくなってしまいます。人がいない、金が無い、と言う時は、優先順位を決めて、一番有望なものに資源を集中し、じっくりと取り組むべきなのです。

 

プロパーの人間にとっての常識が、役所から天下ってきた役員には理解できません。利益を追求するよりも、マイプロジェクトを立ち上げることにしか関心が無く、成果を上げることばかり急ぐため、かえって成果を上げられないという悪循環を自ら招いていることに気がつきません。まるで、魚が針にかかる前に釣り竿を上げては、魚が釣れないとぼやき続けているようなものです。

 

あなたが病気に罹り、医者に診てもらったとします。医者はあなたにこう言います。「あなたは、自分が病気だと思い込んでいる病気です。だから注射も薬も必要ありません。どうしたらいいか自分で考えてください。それが唯一の治療法です。」

 

会社は、自分が具合が悪いことを最後の最後まで認めません。具合が悪いのは社員の頑張りが足りないからだと片づけてしまいます。

 

イエスマンとノーマン

「自ら退路を断つ」とか「不退転の決意」という言葉が大好きな人がいます。それを実行できる人は、立派だと思います。しかし、現実は、自分より下の人間に退路を断たせ、不退転の決意を強いる上司がほとんどです。

 

役員となって経営陣の仲間入りをしても、そこでも上下関係が待っています。会長・社長には良い顔をし、部下には厳しい態度で接する。できそうもないことを「できる」と約束して、その“つけ”を下に押しつけるという光景を私は何度も見てきており、自分もつけを押しつけられる立場になったことが何度もあります。

 

役員フロアのイエスマンが、部下のやることとなると、細かいことに口を挟んでくる、というのもよくある話です。

 

マイクロマネージャーが職場にいると、部の士気を低下させるだけでなく、仕事が捗らなくなります。現場の担当者に、いきなり役員から電話がかかって来て、本社からの指示を撤回されたら最後、現場は役員の言うことにしか従わなくなります。現場を動かすためには役員を説得しなければならず、自ずと仕事が遅れ始めるのです。

 

ボトムアップの提案にケチをつけ、業務の支障を自ら招いていることに気がつかないとなると、手の施しようがありません。

 

部下のやる気を殺ぐ言葉

部下の逃げ場を無くし、不退転を強いることが自分の仕事だと勘違いしている上司は、存在そのものが部下のモチベーションを失わせることになります。それに加えて、「結果が全て」とか「結果が伴わない努力は無駄な努力」などと、他人事のように唱えることが、さらに部下のやる気を殺ぐことになります。

 

自分も当事者だと分かっていない上司は、一緒に働いているという連帯感を部下に抱かせることができないばかりか、部全体を負のスパイラルに陥らせてしまうのです。中間管理職がどんなに励まそうとしても、部下に一度植え付けられてしまった諦観は拭い去ることができません。

 

「できない病」の対処法は、“今できることをする”につきます。人やお金に限りがあるのなら、その範囲でできることをするしかないのです。恐ろしいのは、真面目な社員が「知恵を出せ」という上からの言葉を“忖度”してしまい、心の均衡を失ってしまうようなことが起こり得ることです。

 

「知恵を出せ」ということほど無責任な指示はありません。なぜなら、「知恵を出せ」と言う人間は、決して自分も一緒に悩もうとはせず、解決できない難題を下に丸投げしているだけだからです。そのくせ、あれもやるべき、これもやるべき、と現場の置かれている状況を考えもせず、仕事を増やしてしまいます。

 

件のポスターを総務がいつまでたっても剥がさないのは、知恵を出すのが現場の仕事だと言いうことを社員に忘れさせないためでしょう。人間の体なら、知恵を出すのは頭です。手足は知恵を出すところではありません。

 

社員を大切にしない会社は、病気になっても頭が痛みを感じることはありません。手や足、それぞれの臓器が自分の具合が悪いことを頭に伝えても、まともに取り合おうとしません。手足が腐り落ちて、ようやく自分が病気だと気づくのです。