和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

働くこと、生きること (1)

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働くことの理想と現実

学業を終えたら、働いて自立する。私はそのことに何の疑問も持たずに就職しました。それから約30年。もう定年が現実のものとしてすぐそこまで来ています。

 

これまで、折に触れ、働くことの意味を後付けでいろいろ考えてきましたが、どれも腹落ちするようなものではありませんでした。

 

会社は事業目的がはっきりしています。どのような会社も何等かの形で社会に貢献することが事業の目的になっています。中で働いている社員は共通の事業目的に様々な形で貢献することと引き換えに給料をもらっています。

 

しかし、もらった給料分の働きをしている社員はどのくらいいるのでしょうか。高い報酬に見合った活躍をしている役員はどれくらいいるのでしょうか。恐らく、一部の人間の活躍で会社は利益を上げ、大半の社員はそのおこぼれに与っているだけなのではないかと、私は思います。

 

かく言う私も、これまでの仕事を振り返ると、成功して利益貢献したプロジェクトと、立ち上げすら出来ず損失を招いてしまった事業もあり、トータルではトントン、もしかしたらマイナスかもしれません。また、一線を退いた元役員の世話係など、会社の事業とは関わりの無い仕事もしてきました。就職当初に思い描いていた社会人としての夢とは全く違った会社人生でした。

 

だからと言って、そのような過去に虚しさを覚えているわけではありません。仕事や人間関係で様々な経験をし、勉強になったことを上げればきりが無く、むしろ、自分を大きく育ててくれたことに感謝すらしています。何と言っても、この会社に入っていなければ、妻と出逢うことも無かったわけですから。

 

会社に抱いていた理想と働いて分かる現実の違い。若い頃はそのギャップに苛まれ、逃げ出したい衝動に駆られたこともありましたが、歳とともに、目の前の現実を受け止められるようになりました。それは現実に対する自分の無力さへの諦めではなく、達観に近い感覚でした。

 

会社は仕事をする場であって、それ以上でもそれ以下でも無いこと。上司や部下、同僚とも仕事と割り切って付き合うこと。情に流されないこと – どんなに会社に貢献し尽しても会社はあなたを同じように大切にしてくれるわけではありません。くれぐれも会社に骨を埋める覚悟など持つべきではありません。

 

ワーク・ライフのバランスの取り方

先日、妻の病気療養のために配置転換の希望を会社に出した話を記事に書きました。

 

lambamirstan.hatenablog.com

 

私は、仕事をセーブして家族のための時間を確保したかったのです。時間だけでなく、頭の中の「仕事のことを考える領域」を減らしたいと考えました。人事異動の季節を過ぎてしまっていたので、私の希望は宙に浮いたままとなっていましたが、このまま無為に時間が過ぎていくのを放っておくことも出来ず、私の直属の部下に少しずつ仕事の引継ぎを始めました。また、会社貸与の携帯電話を返却しました。これで少なくとも週末に社用メールの着信のために携帯電話が震えっ放しということは無くなります。

 

仕事とプライベート、どちらも疎かにしてはいけないと思いますが、どちらを取るか聞かれたらプライベートを選ぶべきです。悩む理由などありません。私のかつての部下に、父親が亡くなったその日に「残務整理」として出社した者がいましたが、タクシーに押し込んで無理やり帰らせたことがあります。仕事の穴など放っておけばいいのです。突然、一社員が休んでも、会社が傾くわけではありません。

 

家族のケアのために仕事をセーブしたい社員がいれば、そのように仕事をアレンジするのが会社の役割だと思います。人生のステージによって、育児、家族の看病、親の介護など、プライベートに時間を割かなければならないことが生じた時に、仕事とのバランスを本人に押しつけるべきでは無く、会社も積極的に仕事のできる環境づくりに関与することが、働き方の多様性につながるのだと考えます。

 

私は、自分がそうしたいからと言うわけでは無く、以前から部下には年間の大まかな休暇スケジュールを作らせています。部員同士、いつ休むかあらかじめ決めておいた方が仕事がしやすいことと、休暇前に周囲に気を遣う必要が無くなるからです。

 

依然として休暇を取得することにある種の「後ろめたさ」を感じている社員が少なからず存在するのは、上の人間がそういう風潮を払拭しないからです。土日祝日に加え、有給休暇を消化しても仕事が回るようにするのが上の人間の務めなのですから、ワークライフバランスの取り方について、自ら手本を示さなければ、部下はついてきません。

 

理想と現実は埋まらない

やりがいのある仕事を任せられ、プライベートにも配慮して仕事ができる、そんな環境で働ける人はまだまだ少ないと思います。ほとんどの人は、程度の差こそあれ、仕事と家庭の両立に苦しんでいるのでは無いでしょうか。しかし、どちらかを選ぶことを迷う理由はありません。人生の中心は自分、そして家庭なのですから。(続く)