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できない病  知恵を出すのは誰?

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幹部社員の“残業”問題

社員の時間外労働の上限に関する法的規制は年々厳しくなってきています。残業の上限規制は、これまで厚労省の告示によるものでしたが、去る4月の労基法改正により、時間外労働の上限枠が“法律により”設置され、罰則規定もできました。会社は社員の労務管理に一層の注意を払わなければならない時代となりました。

 

私の勤め先は、従来、社内ネットワークの勤務実績表に各自が勤務時間を記入し、残業時間も自己申告に基づくものとなっていましたが(なんと緩い会社)、法改正に伴い、全社員は各自のパソコンのログオン・ログオフ時間で勤務実績を客観的に把握することになりました。これに困っているのが、経営陣と一部の管理職です。今、社内では幹部社員による時間外勤務が、地味ではありますが見過ごせない問題となりつつあるからです。

 

幹部社員の負担は増える一方

思えば、私が若手・中堅社員の頃は、部長や課長はほとんど残業をしていませんでした。実務は部下に任せ、自分たちはほぼ定刻で退社していました。もっとも当時(20数年前)の部長・課長クラスは、ワープロすら使えない人がほとんどでした。力仕事は部下の仕事。社内調整や部下の采配が自分たち仕事、という役割分担がきちんとできていました。私や同僚は、残業の毎日。当時は終電がなくなれば、本来接待用のはずのタクシーチケットで帰宅することが認められていました。また、時には徹夜で翌日の社外会議の資料を作ったりもしました。私は、自分も早く管理職になって残業のない生活がしたいと思ったものでした。

 

さて、今私は幹部社員となって、10名弱の部員を抱える部長の職にあります。仕事は部下に任せて、チャイムがなったら片づけを済ませて帰宅・・・とはなりません。自分が思い描いていた管理職ライフとは全く異なる現実がありました。部下に早めの帰宅を促し、仕事が思うように片付かない部下の愚痴を聞き、相談に乗る。片付かない仕事は課長と手分けして進める・・・。用事があって止むを得ない場合以外は、私は部下の仕事に付き合っていることになります。

 

もちろん、部長としての仕事もあります。例えば、自分が出席しプレゼンする資料などは、平日じっくりと考えを巡らす時間が取れなければ、週末に作成することになります。時たま週末に出社すると、顔を出しているのは部長や課長クラスの者ばかり。若手や中堅の姿は見ません。彼らにしてみれば、残業はそれほど多くなく、土日は自分の余暇として十分に満喫できるので、その点に関して言えば不満はないはず。会社としても、社員の残業代が減ることは喜ばしいことであります。

 

しかし、このように、若手・中堅には極力残業をさせないという社の方針があるため、上司は彼らに対して、就業時間内に完了する量の業務しか割り当てることができません。その部署の業務量が従来どおり変わらないとすると、処理しきれない業務が発生することとなります。今、私たち管理職はこのような若手・中堅が処理しきれない仕事をこなしているのです。そして、本来管理職としてやるべき仕事を、ある者は家に持ち帰り、ある者は休日出勤で対応することを余儀なくされている、というのが現状です。幹部社員の負担は増える一方です。

 

知恵を出すのは誰の仕事か?

人員の補充については、私も含めそれぞれの部署の長が人事部に要請していますが、社内のどこの部署を見回しても、若手・中堅は手薄となっており、余剰人員などおりません。中途採用と言っても、なかなか目ぼしい人材が現れず遅々として進んでいません。経営陣は「人が足りないなら知恵を絞れ」、「無駄な仕事が無いか確認しろ」と簡単に言いますが、これは仕事を知らない人間の言う言葉です。

 

ひょっとしたら皆さんの会社にもあるかもしれませんが、わが社には各フロアのコピー機の前に、「できない病にかかってない?」とか「「どうすればできるのか?」知恵を出すのがあなたの仕事!」などというポスターが貼ってあります。こちらとしては、業務の棚卸しをし、業務のスリム化を行った上で人事部に人員補充を要請しているのです。そもそも、無駄な仕事の大半は役員フロアから降ってくるもの。仕事のやり方が一昔前と変わってきているのですから、現場に仕事を下す側こそ知恵を絞って無駄な仕事を減らしてもらいたいものです。

 

今の若手の中には、出世を望まない者が少なからず存在します。疲弊している上司を見て、自分の将来に夢や希望が持てるでしょうか。若手や中堅の社員に気を配り、幹部社員を蔑ろにすることが、かえって将来の幹部候補の芽を摘んでいることにお偉方はいつ気づくのでしょうか。