若手社員の退職
先月と何が変わったというわけではありませんが、「師走」と聞いただけで何となく心がそわそわしてきます。
私とペアを組んでいた若手社員は今月一杯で会社を去ることになりました。退職日は来年一月末ですが、最終勤務日は今月の二十五日。あとは残っている有給休暇の消化に充てられます。
彼からはすでに先々月には退職の話を聞かされていました。彼は決して軽率短慮な人間でないことを分かっていたので、それが相談ではなく自分で出した結論なのだと受け止めました。
彼はゴールデンウィーク直前に海外駐在の打診を受けたものの、それを断り現職に留まることにしました。婚約者との結婚を控えていた彼は熟慮の結果、人生の伴侶との生活を優先させたことも聞いていました。
その後、二人の間でどのような話があったのかは定かではありませんが、結婚は先送りにしたようです。結婚後に彼の転勤話が出れば、同じような悩みを抱えることになるかもしれません。結婚に踏み切れなかった原因はそんなところなのかと私は勝手に想像しました。そして、会社を辞めるのも、二人の将来を考えて働き方を変えることが理由なのだと推察しました。
彼の退職の発令が公になったのは先週初めのことでした。私は上司に彼の後任はどうなるのかを尋ねました。どこの部署も慢性的な人手不足なので欠員がすぐに補充されることなど期待していなかったので、来年の春までの間、私の仕事のサポートは無しと聞いても驚きませんでした。
彼の退職で私の仕事が増えるのは覚悟しています。時間的にも精神的にも、少なからず私のストレスになりますが、それは私の問題として対応できる範囲の話です。
働き方の選択肢
毎月社内で公表される人事発令の冒頭には採用者の名前が連なり、末尾には定年や自己都合の退職者や再雇用者の名前が並びます。
当然のことながら、それぞれの人数は月によって異なりますが、穴の開いた器に水を注ぐようなもので人手不足の解消の目途は依然立っていません。
社員の異動についても、今のご時世、会社の思うようにはなりません。地方への転勤や海外駐在ともなれば、共働きで子どもを抱える社員に単身赴任を打診しても、それを受け入れる者はほとんどいません。結果、独身者や“社命を断れない”古い世代に白羽の矢が立つことになります。
先月、私と同年代の社員が海外の事務所に転勤していきました。奥さんは専業主婦、一人息子は高校生。大学受験を考えれば、単身赴任の選択しかなかったのでしょう。それよりも、私が気になったのは、彼の父親は昨年大病を患って長期間入院していたことでした。母親はすでに鬼籍に入っていて、親の世話をする兄弟姉妹はいません。
おそらく、あと数年もすれば、彼のような家庭の事情を抱えている社員が転勤を受け入れることはなくなるでしょう。「社命を帯びているのだから」という理由が通用しなくなる時代はすぐそこに来ています。
働き方の選択肢は否応にも広がり、会社の言いなりに異動や転勤を受け入れる社員は希少な存在になるのでしょう。