和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

清く正しく美しく

宝塚ファンの母

宝塚歌劇団団員の自殺をニュースで知って、私の頭に浮かんだのは、母親が鳳蘭さんの大ファンだったことでした。母は今でも鳳さんのブロマイドや演目のチラシを大切に持っています。

 

当時幼稚園児だった私は、母に連れられて一度だけ有楽町の宝塚劇場を訪れたことがあります。周りが大人の女性ばかりだったため、子どもの私は戸惑いと怖さで母にしがみついていたことしか覚えていません。

 

たぶん、私が宝塚歌劇を見たのは - 内容すら覚えていないので見たと言えるかは疑問ですが – その一回限りでしたが、母は知人と連れ立ってしばしば観劇に出かけていました。

 

劇を見に行った後、しばらくの間、台所で下手な歌を繰り返し口ずさんだり、所作が大袈裟になったりしたのは、母が憑依型ファンだったからなのでしょう。

 

家ではテレビを時計代わりにしている母ですから、このニュースを知らないはずはありません。次に母に会った時は、こちらが持ち出すまでもなく、母はきっとこの話題に触れ悲しんだり怒ったりして、孫が自ら命を絶ったら自分も生きてはいけない – そんな話を繰り返すのでしょう。

 

宝塚の大ファンである母にとって、自分が長年持ち続けてきた思いを傷づけられたことがどれほどのショックかは私には想像できません。

 

清く正しく美しく

私は、俳優や歌手の人たちは劇やコンサートを作り上げるための真剣さが、ときに衝突や厳しい指導となって現れるものの、それは、より良い作品を目指すために必要なものなのだと思っていました。

 

もし、今回亡くなった方のご遺族が訴えるように、過重労働や同僚からのいじめが自死の原因なのだとするととても残念です。また、これが稀有なケースではなく、隠れた被害者が少なからずいるのではないかと考えてしまうと、これから先、どんなに素晴らしい作品を上演しようとも、常に負のイメージが付きまとうことになってしまいます。

 

その点、宝塚歌劇団の対応は悪手で、団内にいじめは存在しないとの前提で火消しを行なってしまいました。第三者機関による公正中立な調査・原因究明を抜きにした幕引きでは、近い将来、同じことが繰り返されるリスクが残されることになってしまいます。

 

母が、「人間は清く正しく美しく生きなければだめだ」とよく言っていたのも宝塚に感化されたためですが、たとえ、他者の受け売りでも、母のその言葉を私はそのまま受け止めています。

 

歌劇団の中の大人たちが、ファンや団員を大切に思う気持ちがまだ残っているのなら、今回の件をこれで終わらすことはないと願っています。