花いちもんめ
私の勤め先で社内公募制度が導入されたのは二十年近く前になります。いわゆる紛争地域でのプロジェクトを立ち上げ、そこに人員を派遣する段になって、労働組合から派遣候補者の意向を最大限配慮するように注文がついたことがきっかけでした。
社命とは言え、特別手当がつくからとは言え、安全対策は十分に取られているとは言え、命の危険に晒される場所に喜んで向かおうとする社員はそう多くはありません。
幸いにして、問題の駐在地でこれまで死傷者は出ておらず、いつしか公募制での派遣から通常の“社命による”派遣に戻りましたが、社内公募という制度だけは残りました。
人手不足が顕著となる以前の人事異動と言えば、部署間で調整した上で人事部に“仁義を切って”行っていました。“花いちもんめ” - 昭和の遊びを例にするとは古いですね – と変わりません。
囲い込み阻止のための公募
時代が下り、どこの部署でも人手不足に悩まされ、それぞれの部署は有能な人材を囲い込むようになりました。有能な人材こそ会社は多様な経験を積ませることによってキャリアアップを支援すべきなのですが、上司が重宝すればするほど、有能な - 使い勝手の良いと言うべきでしょう – 部下を手放したくないと考えます。
私が部長だった頃、部での滞留年数の長い部下がいたのですが、交代要員の目途が立たずに異動を先送りせざるを得ないことがありました。おそらく、当時は同じような事情を抱えていた部署が少なくありませんでした。
人事部が社内公募制を拡大的に活用するようになったのは、自らが強権を発動して人事異動を推し進めることによって批判されることを嫌がったからなのかもしれません。
当初は公募制の濫用とならないよう、緊急度や重要性を考慮していたようですが、今ではイントラネットの公募ページでは複数の部署からの募集が進められています。
公募制に手を上げたい社員は直属の上司の許可も事前相談も必要ありません。公募に当選すれば、現所属部署はそれを止めることはできません。
かつては、転職でもしない限り、職場や上司を選ぶことができなかった社員は、自らの意思で自分異動先を選べるオプションを手にしたわけです。その点、一般社員にとって公募は良い制度なのだと思います。
先述のとおり、現在複数の公募が行われていますが、それでも一時期の“ブーム”は下火になった気がします。公募をかけた部署の部員が他の部署の公募に応募するなど、人材の取り合いの様相を見せるようになり、結局は事前調整による人事異動という、一周回って元に戻る方向に動いているようです。
公募制を導入したからといって、全社的な人手不足が解消されない限り、実のある組織の活性化にはつながりません。