和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

梅酒作り

一周回って

新型コロナ対策の一環と言うとやや大袈裟ですが、極力外出を控えるようにしていた時期から大手スーパーの宅配サービスを週に2回ほど利用するようになりました。予め購入する品物を決めておくので無駄な買い物が減り食費が抑えられるようになったのですが、ここ半年ばかりの間に利用回数が週1回程度に減りました。

 

宅配サービスそのものに不満があるわけではありません。いつも時間どおりに商品を届けてくれる配達員の方々には頭の下がる思いですが、ここ数か月、野菜や果物の質が落ちてきている気がしたので、生鮮食料品は以前のように近くのスーパーや近所の農家さんの販売所で調達するようになりました。

 

販売所では形や大きさが不ぞろいで出荷出来なかった野菜を売っているので、鮮度は抜群の割に家計に優しい値段のものばかりです。我が家のように見た目を気にしなければ、ここを利用しない手はありません。品定めが必要な物は、やはり直接手に取って買うのがベスト。一周回って元の位置に戻った感じです。

 

梅酒作り

さて、この季節、我が家では梅酒作りをするのが恒例となりました。梅酒は仕込みから数か月で飲めるようになりますが、一年程度寝かせたものがちょうど良い飲み頃では無いかと思います。

 

以前は広口瓶ひとつ分の梅酒を一年かけてチビチビ飲んでいました。前年の梅酒が無くなる頃に、その年に仕込んだものが飲み頃になる。ところが、下の娘が成人を迎えてから、このローテーションが狂ってしまいました。

 

一年かけて楽しむはずの梅酒が半年あまりで空になってしまったのですから、娘はウワバミかと疑ってしまいました。もっとも、これは下の娘のせいでは無く、どうやら私がいない時に女子三人で酒盛りをする機会が増えたのが原因だったみたいです。それ以来、梅酒は二瓶分を仕込むようになりました。

 

ところが、その直後に妻の闘病が始まったため、我が家の酒量は激減しました。“二年物”の梅酒はひと瓶丸々残っています。

 

母の淋しさ 娘の悩み

週末に下の娘と買い物に出かけると、南高梅が売られ始めていました。私は娘に、今年はひと瓶だけ作ろうかと尋ねましたが、「二つに決まってるでしょ」とキッパリ。 娘は私の反応を待たずに買い物かごに二袋の梅を入れると買い物を続けました。

 

その日の午後、娘と二人で梅酒の仕込みをしました。買ってきた梅の実を軽く洗ってから、一粒ずつ水気を拭きとり、爪楊枝で“ヘタ”を取り除きます。

 

「もし、独り暮らしになったら、一本もらっていてあげるから心配しなくていいよ」。爪楊枝を動かしながら、娘がポツリと言います。就活生の娘は、有難いことに京都にある会社から内定を頂きました。まだ就活を終えたわけではありませんが、来春は京都で独り暮らしをしていることになっているかもしれません。

 

妻は、独り暮らしに反対はしない素振りを見せつつも、言葉の端々からもう少し娘と一緒の時間を過ごしたいと言う気持ちが感じられます。病気から来る心細さなのか、あるいは単に親のわがままなのかはさておき、母親のそのような心の動きは娘にも伝わります。

 

そんな妹の相談に付き合わされるのはいつも姉です。そして、黙っていられない性格の上の娘から、私は下の娘の悩みをこっそりと聞かされました。もし、娘が独り暮らしをすることに躊躇していて未だ就活を止められないのだとすれば、それは親としては本意ではありません。我が子とは言え、親の思いだけで束縛してはならないのは分かりきっていることです。

 

冷静に見える妻ですが、内心は娘の巣立ちを素直に受け入れられていないと思います。その淋しさや不安を丁寧に取り除かないと、独り暮らしを反対したり、娘と一緒に京都で暮らすと言い出しかねません。

 

そんなことをつらつらと考えているうちに、梅酒の仕込みが終わりました。今年はホワイトリカーとバーボンと、ベースの違う梅酒を作りました。梅と氷砂糖は1:1。少し甘めに作るのが我が家流です。仕込み終わった広口瓶をパントリーの奥に押し込んで作業は終了となりました。

 

どこの家でも、親離れ・子離れの問題は多少ないともあるのでしょうが、この手の話は、気を遣って慎重になると、拍子抜けするくらいに何でもないことで片付くのですが、大した話では無いと気楽に構えていると予想外のトラブルに発展しかねないので、扱いに苦慮しそうです。