和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

それぞれの疎外感

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社会復帰の準備

オミクロン株による感染の急拡大で、私の勤め先では先週から再び在宅勤務が基本となりました。

 

昨年の11月頃に在宅勤務日数が制限された時、私は上司に、各部員の事情を考慮して部の裁量で制限の適用除外が出来るよう人事部や関係部署と交渉するように促しましたが、そんな私の要望が通るはずも無く、同じ部の妊娠中の女性社員や病人を抱える私は不安を抱えながら年を越しました。

 

万が一にも家庭内感染などを引き起こさないよう、私や娘たちは注意を払ってきましたが、家族の心配をよそに、妻は副作用の弱い抗がん剤の投与に変わってから、着々と復職の準備を進めていました。

 

私は妻に、無理せずのんびりと療養することを勧めましたが、「お医者さんが反対しないのであれば社会復帰したい」と、本人は復職の意志を曲げませんでした。一旦言い出したら誰も止められない - 娘たちも母親の性格を良く知っているので、余計な口出しはしてきません。

 

結局、お医者さんの後押しが得られ、妻は勤め先とのすり合わせを済ませた上で、この2月から週2日のリハビリ出社をすることになっていました。ただし、新型コロナの感染状況によって変更もあり得ると言うものでした。

 

復職延期

そして、タイミング悪く「第六波」がやって来ました。妻の勤め先は、無理をして最悪な時期に職場復帰を急ぐ必要は無いのではと、妻に対してリハビリ出社の延期を提案し、妻もそれを受け入れました。

 

妻は頭では納得しているのでしょうが、リハビリ出社の延期が決まってから、何となく沈みがちです。これまでリハビリ出社に向けて、主治医の先生、会社の上司や産業医とのやりとりを自分で行ってきました。妻としては、この二年余りの間、家と病院の往復だけの生活だったので、家族以外のどこかに自分の存在意義を求め、復職を急いでいたのでしょう。

 

これが、働くのはまだ無理と専門家が診断したのであれば諦めがついたのかもしれません。ところが、全てのお膳立てが整い、2月になるのを待つばかり、もう少しで手が届くところまで来ていたものが逃げて行ってしまったのでした。その口惜しさは、たぶん、妻にしか分からないのだと感じました。

 

以前、妻は、仕事から切り離されて治療に専念せざるを得ない状況を「疎外感」と言いました。妻の職場の同僚が妻のことを疎んじていたと言うことでは無く、闘病の不安や孤独感などから被害妄想的に発した言葉だと思っていました。

 

その後妻と話をする中で彼女の言う「疎外感」の意味するところが少しずつ分かってきました。

 

妻は、自分が病気休職となった後でも、同僚からの近況報告で、会社の仕事が滞りなく進んでいる様子を知っていました。自分がいなくなっても支障無く仕事は進む。自分が長く休んでいても誰も困らずに仕事をこなしている – そんな職場の様子を思い浮かべ、自分だけが取り残されてしまったと感じたようです。

 

私は妻に、別の部署から欠員補充すること無く、同僚の方々が不在中の妻の仕事を少しずつカバーしているのだから、決して疎外などされていないことを説きましたが、なかなか納得はしてくれませんでした。

 

妻にとっては、何かに貢献している自分を実感するには、復職が一番の近道なのでしょう。

 

組織の中での疎外感

疎外感と言えば、一昨年入社した別の部署の若手社員から同じような言葉を耳にしました。

 

昨年の師走の話なので、もう二か月近く前になりますが、ある入札案件に先駆けて締結する守秘義務契約の査読を終え、不明な点を担当部署に聞くこととなりました。そこで担当の課長と話をしようと声をかけたところ、代わりに顔を出したのがその若手社員でした。

 

見た目、あまり覇気が感じられませんでしたが、契約内容は良く把握していて確認作業は予定よりも早く片付きました。課長が仕事を丸投げするだけあって、入社2年目にしては、しっかりと仕事をこなしている印象を持ちました。

 

私は、彼の仕事の出来映えを率直に褒めたつもりだったのですが、彼は苦笑しながら言いました。この仕事が自分の役に立っているのか分からない。部署の誰も自分に関心が無く、与えられた仕事の出来、不出来について何か言われたことも無い。組織の中で働いているのに孤立している感じだと。

 

初対面の私に不満を吐露するのは、余程鬱憤が溜まっているのか、あるいは、今時の若者の物怖じしない傾向なのか。それはともかく、私はまた転職予備軍をひとり見つけてしまったことに、小さな嘆きを感じました。

 

この2年余りの在宅勤務で、50代の私としても、組織としての一体感を維持するのに腐心してきました。おそらく、意識的に朝会やコミュニケーションタイムなどを設けて縦横のつながりを保とうとしなければ、部や課のまとまりを失ってしまったでしょう。

 

組織の中での仕事の進め方に不慣れな若手社員であれば、なおのこと、上司を含めた上の人間のサポートが必要です。在宅勤務の中ではなおのこと、本人の気持ちを掬い取る努力が必要で、その努力すらしなければ、入社して年数の浅い社員は、自分が疎外されていると受け取ってしまう可能性もあります。