和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

心の波と過保護な上司

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家族への甘え

数年前、海外駐在の終わりから帰国後にかけてのしばらくの間、妻の精神状態が不安定だった時期がありました。最初は、娘たちの進学のことや帰国前後の慌ただしさがストレスになっているのだと考えていましたが、私の何気ない一言 - 励ましや気休めの言葉 – にヒステリックに反応する様子は今までの彼女からは考えられないものでした。

 

私は妻の情緒不安定の度合いが心配になり、嫌がる妻を説得して心療内科に連れて行ったのですが、その後、妻は産婦人科を紹介され、更年期障害と診断されました。

 

妻の場合、更年期障害に伴う頭痛や火照りなどの症状が以前からあったようなのですが、それと更年期障害が結びつかなかったようです。お医者さんから処方された薬で症状の改善があったのもさることながら、妻自身や家族が情緒不安定の原因と対応を理解したことで、家庭内の不安定な状態を乗り越えることが出来ました。

 

その時お医者さんから言われたのは、家族の誰かの不調は家族全員の問題だと言うことでした。家族の一員の体調不良を全員が認識し、どのように対応すべきかを理解することが大事で、周囲の接し方ひとつで症状が緩和される場合もあれば、悪化することもあるのだと言われました。

 

そのようなこともあって、私も妻や娘たちには、あまり調子が良くない時には素直に打ち明けるようになれました。変に無理をして家族に余計な不安を抱かせるよりも、自分の心の状態を知っておいてもらう方が気は楽です。もちろん、出来ることなら家族に対していつも元気な姿を見せたいところですが、そう都合良く行かないことの方が多いものです。心の緊縛を解いて凹んでいる時のありのままの姿を見せられるのも、自分が甘えられる家族ならではです。

 

心の波

誰にでも何となく気分が優れない時があると思います。仕事もプライベートも全て順調。気がかりなことなど無いはずなのに心が弾まない。更年期障害等のはっきりした原因が無くても心が沈んでしまうことはあります。

 

ちょうど今の私がそんな状態です。以前は、「何か原因があるはずだ」と見つかるはずの無い理由を探しては悶々としていた時もありましたが、最近は心の好不調はバイオリズムの悪戯だと納得するようにしています。

 

バイオリズムが自分の意思とは別のところで上がったり下がったりするのであれば、やがて波が上がって来るまで放っておくしかありません。家族には気持ちの不調を白状しているので、お互いに余計な気遣いはせずにいられます。気晴らしの散歩くらいならともかく、無理に気分を盛り上げようなどと考えずに時間が解決してくれることを待つのみです。そう遠くないうちに気分が晴れることはこれまでの経験から分かっています。

 

過保護な上司

対照的に、職場における上司や同僚は、ほとんどの場合“甘えられる”相手にはなり得ません。体調不良で仕事が出来ないのならいざ知らず、部下から、何となく気が重いとか、やる気が起きないと言うことで相談を受けるのは稀です。

 

私の拙い経験から、部下が上司に“仕事をするのがしんどい”と言ってきた時は簡単に考えないようにしています。そこで部下を叱咤激励すると、当の本人は相談相手を失ってしまうことになります。

 

むしろ私は、相手が相談を持ち掛けてくる前に、仕事中の表情や言動を見て声をかけるように心がけてきました。中には心の不調を認めたくない者もいました。あるいは、将来の昇進や評価に響くことを恐れる者もいました。

 

私はそのような不安を吐露した部下に対して、自分の経験を話しました。そして、長い会社人生の数か月の小休止が、後で振り返った時に“やはり必要だった”と思える時が来ることを説きました。

 

もちろん全てが上手く行ったわけではありません。中には、私の言葉を撥ねつけた者もいました。私自身、周囲から“部下を簡単に病気休職させる上司”と陰口を叩かれたこともありました。「多少のつらい思いを体験させなければ、ストレス耐性が身に着かない。お前のやっていることは、軟弱な社員を増やしているだけだ」と面罵されたこともありました。

 

たしかに、私の余計な世話が不要な部下もいたかもしれません。心配のし過ぎだったのかもしれません。しかし、私は、一緒に働く者に自分と同じようなつらい思いをさせたくない一心でした。

 

ストレス耐性の高い社員を育てることも会社にとっては重要なのかもしれませんが、その陰で心を壊して活躍の舞台からの退場を余儀なくされる者も出てきます。育てる立場の人間は、鍛えることと休ませることのバランスを理解しておく必要があると考えるのですが、挫折を味わったことの無い人間の目には私のやり方は温いと映ったのだと思います。

 

社員の残業時間は削減され、ハラスメントは少なくなり、職場はかつてと比べれば働きやすくなったことは事実です。しかし、心の不調により休職を余儀なくされる社員の数は減りません。社員は部品のように一定の歩留まりを維持さえしていれば良いと言うものではありません。落伍者をひとりでも減らす努力も必要なのだと思いますが、そう考える私は温いのかもしれません。