和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

仕事の出来ない人 (1)

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壊れた人

とても優秀で周囲からの評判も高かった社員が、何かをきっかけに中心的な役割から外され、以後成り下がったまま会社人生を終えてしまうことがあります。

 

向いていない仕事を無理やり任されたり、火中の栗を拾わされたりと、本人にとっては災難としか言いようのないことに巻き込まれてしまった社員もいました。また、たまたま仕えた上司や同僚と反りが合わずに精神のバランスを失ってしまう者もいました。

 

減点主義の会社にあっては、たった一回の罰点が命取りとなってしまうことがあります。もっとも、罰点をひどく気にするのは上昇志向の強い社員にとっての話です。肩書や役職に拘りの無い者にとっては、上司からの理不尽な叱責や職場での冷遇など、痛くもかゆくもありません。

 

ともあれ、仕事そのものでは無く自分のポジションを一番気にする人間にとっては、出世街道からのコースアウトは、最大の目的を喪失したに等しく、まるで人生そのものが終わってしまったくらいのショックを受ける者もいるようです。

 

私の数年上に優秀な先輩 – Kさん - がいました。私が初めて海外駐在する直前の1年間、その先輩と一緒に仕事をさせてもらい、とても勉強になったことを覚えています。

 

当時、Kさんは幹部社員一歩手前の位置についていましたが、自他ともに“出世頭”と認める存在でした。“自他ともに”と言うのは、Kさんが事あるごとに、将来役員になりたいと周囲を憚らずに言うことがあり、そのような大口をたたくだけの(?)仕事をしていたからです。

 

Kさんも私よりも少し後に別の地に駐在となり、海外生活は十年近くに及びました。その間、現地の駐在事務所で、海外の大手企業と親交を深め、外から自分の会社を見続けていると、自社に足りない部分、改善すべき部分が見えてきたのでしょう。駐在を終え帰国すると、Kさんは主に意思決定プロセスに関する改善案を企画部門に提出しました。

 

ところが、超保守的な会社の管理部門としては、事業部からの提案など歯牙にもかけません。挙句の果てには、Kさんは、身内の事業部からも“出過ぎた真似をする外国かぶれ” とのレッテルを貼られてしまったようです。

 

次第に上からも疎んじられるようになったKさんは居場所を失い、やがて精神的に不安定となり休職、そのまま休職期間満了で退社してしまいました。

 

それまでは、たまに思い出したようにメールのやり取りをしていたKさんと私でしたが、ある時からパタリと連絡が途切れてしまい、私は二度目の駐在の地でKさんの退社を知りました。後から、連絡が途絶えたのは、Kさんが病気に倒れた時期と一致していることを知りました。

 

風の便りで、Kさんは奥さんとお子さんともども実家に身を寄せて、病気療養に専念していると聞きました。もう、それから、十年近く経ちますが、もしあの改革案が社内で取り上げられていたらと考えると、何ともやるせない気持ちになってしまいます。

 

Kさんは、会社にとって良かれと考えて踏み出した一歩が、まさか、自分の心に深いダメージを負わせるような大事になるとは考えもしなかったことでしょう。

 

もう、最近ではKさんのことが話題に上ることなど無くなってしまいましたが、退職した直後には、“仕事も出来ないくせに言うことだけ一人前”と、実像とかけ離れた人物像を吹聴する上層部の人間もいました。

 

上の人間が、退職者を悪し様に言うこと自体、器の小ささを示していることになるのですが、それはさておき、実務能力に長けていても、引きずり降ろされることがあることと、そのような苦境をしなやかにいなすことが出来ないと、自分で自分を追い込んでしまうことになるのだと、私の目にはKさんの一件がそのように映りました。

 

見切りをつけた人 (1)

役職は、組織を効率的に動かすための歯車の一つでしかありません。

 

ところが、役職が上がることに伴って、給料や出張の際の手当も上がり、自分の裁量で接待費を使えるようになると、昇格を特権獲得と勘違いして喜ぶ社員がいます。しかし、給料が上がると言うことは職責が上がるからで、取らされる責任は重くなります。部下が失態を演じれば、一蓮托生で責任を取らされるのも管理職です。もちろん、中には上手く自分の責任を回避する賢い管理職もいますが、それはまた別の話になります。

 

管理職になってからあまり苦労したことが無いと言う人は、とても幸運だと思います。恐らく優秀な部下に支えられているのでしょう。

 

私は部署の異動はそれほど多くありませんでしたが、部下は社内の組織改編などの影響で増えたり減ったりと頻繁に変動がありました。

 

いろいろなタイプの部下がいましたが、一人、ある意味尊敬している部下がいます。部下と言っても私の4つ上の先輩社員です。

 

その先輩 - Tさん – は、50代で一般社員でした。私は入社早々に別の先輩社員から、Tさんには関わるなと言われていました。その時に聞いた話は、当時計画されていた組織改編について、Tさんが若手社員を集めて社長室に乗り込んで反対表明を行なったと言うものでした。要は、若い社員に妙なことを吹き込んで社内をかく乱する不届き者だと言うのです。

 

幸か不幸か、私は以来、Tさんと仕事で絡んだことも無く、社内でも会釈する程度で、直に会話をしたこともありませんでした。

 

そのような状況でしたので、Tさんが私の部下となる際に、歴代の元上司の方々にTさんの仕事振りや組織内での様子を聞いて回ったものです。(続く)