和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

情報を見極める力

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落書きの痕跡

かつて、テレビや新聞が情報伝達のメインストリームだった時代には、多くの人々がこれらメディアを情報源として頼っていました。私も家で購読していた新聞を読み、書かれている記事の内容を信用していました。

 

ところが、私が大学生の頃、朝日新聞のカメラマンが西表島の珊瑚に落書きをし、その写真を基に記事を捏造した事件が起こりました。“超”がつくほど有名な事件ですが、もし、この事件を初めて聞くと言う若い方は、一度その顛末を調べてみてください。

 

当時、初心だった(?)私は、大手の新聞社が記事を捏造したという事実もさることながら、記事が虚偽であることを認めるまでの朝日新聞社の対応にショックを受け、精神的に大きく傷つきました。

 

所詮メディアも営利を追求する企業集団であることを考えれば、新聞社としては、発行部数を伸ばすために、注目を集める記事をできるだけ多く書くことが命題です。しかし、読者が新聞社に期待するのは売上を伸ばすことではなく、知る権利を守ってくれることです。その本来の使命を蔑ろにし、読者の目を欺くようなことをした以上、その新聞社は死んだも同然です。

 

信頼を寄せていた対象に裏切られたとき、心の振り子は逆方向に大きく動きます。私は、件の捏造記事事件を契機に読者を辞め、高校生の時に教師から言われて日課にしていた「天声人語」の書き写しノートも廃棄しました。

 

私を疑い深い人間にした朝日新聞にはとても感謝しています。

 

さて、新聞やテレビはもはや信頼するに値しませんが、特定の分野の第一人者や重鎮と言われている人々にも注意が必要です。私たちは、病院で白衣を着ている人を見れば医者だと思いがちでが、ひょっとしたら、こっそり紛れ込んでいる詐欺師かもしれません。権威のある人の言葉と言えども、一歩引いて聞く習慣は大事です。

 

情報に踊らされない習慣

記事の捏造は論外ですが、誤報や根拠の無い噂、悪意のあるデマなど、私たちの周りには様々な情報が飛び交っています。情報が溢れている世の中では、何が正しくて何が間違っているのかを即座に判断することは不可能です。オールドメディアの報道のみならず、インターネット上のニュースやSNSで流布される噂の類、そのひとつひとつの真偽を、個人の力で検証することは容易ではありません。

 

しかし、何を信用していいのか分からないからこそ、多くの情報に触れて自分の耳目を肥やして行かなければならないのだと思います。情報分析というと固い言葉になってしまいますが、与えられた情報に疑問を持つことを習慣づけることだけでも、騙されるリスクは低減できるはずです。

 

情報に飛びついてすぐに行動を起こすことは危険です。昨今のコロナ騒動に伴う衛生用品の買い占めも、慌てず冷静に考えれば、店頭に行列を作るほどのことではありませんでした。第一、外を出歩かないことが一番の感染予防にも拘わらず、マスク欲しさに密集した列に並ぶことがおかしいことに何故気づかないのでしょうか。

 

他方、根拠の無い噂をまき散らさないことも大切です。兎角“誰かから聞いた話”というのは、自分がその内容の真偽に責任が無いため、安易に伝言ゲームの波に乗せてしまいがちです。かなり昔の話になりますが、高校生の他愛無い雑談が信用金庫の取り付け騒ぎにまで発展した事件がありました(豊川信用金庫事件)。人の不安を掻き立てる話題は広がるスピードも速いものです。この手の情報は野火のようにあっという間に広がります。

 

今のような状況で、浮足立った行動は、自分自身のリスクを高めるばかりか、騒ぎを大きくすることに自ら加担することにもなるのです。情報に踊らされないよう、また、無責任な情報を垂れ流さないよう、ひとりひとり自覚を持つことが大事です。

 

情報を見極める力

情報に振り回されてはいけませんが、あまりにも情報に無頓着なのも頂けません。

 

例えば、朝、洗濯物を干すときに、その日の天気予報を確認して外に干すかどうか決める。外出するとき、事故などで道路が混雑していないか、電車が遅延していないか確認する・・・。誰でもやっていることだと思います。普通は、天気予報で昼過ぎから雨が降ると言っているのに、外に洗濯物を干したり、すぐに復旧するだろうからと、わざわざ遅れている電車に乗り込んだりはしません。

 

この時期、どうしても新型コロナの話になってしまいますが、感染拡大を防ぐため、人が密集した場所を避けるように、また、外出を自粛するようにとの行政からの要請がありました。外出さえしなければ、その要請に応えることができるのです。容易いことではないでしょうか。

 

なぜ、わざわざ、パチンコをしに行くのか、潮干狩りに行くのか、家族で公園に出かけるのか。自分だけは、あるいは、自分の家族だけは大丈夫という、何の根拠もない自信。その自信が軽率な行動を起こす原動力です。

 

都道府県を越境してウィルスが拡散している原因の一つは、自分だけは大丈夫というお気楽思考です。自分以外に関心がないから暢気でいられるのでしょう。このゴールデンウィークも、“たぶんこんなところに人は集まらないだろう”という場所に、多くの人々が集まるのではないかと危惧しています。身内に被害者が出るまで、そのような人を止めることはできないと思います。

 

今後、非常事態宣言が解除されたとしても、今まで以上に感染防止の自助努力が必要になります。自分の周りのことに無関心ではいられません。そのためには、外部からの情報をどう解釈するのか、どのように受け止めるのかが重要です。判断次第で自分の身を守ることもできれば、自ら危険を呼び込む可能性もあります。これから先、情報を見極める力がより一層必要になります。