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雑談と沈黙

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雑談を通して見える人柄

前回の記事で、私の勤め先で行なっている「コミュニケーションタイム」について触れました。

lambamirstan.hatenablog.com

 

その導入当初、ある打ち合わせの後に、別の部の課長から言われたことがあります。「何かの拍子に口をついて出た話題が広がるのが雑談で、“さあ、これから雑談を始めましょう”と言うのは雑談ではない」。仕事以外の話は全て雑談と捉えても良いような気もしますが、確かに、“さあ、始めましょう”と断ってから雑談するのは奇異な感じがしないでもありません。

 

それはさておき、単に仕事を進めることだけを考えるなら、会社の同僚とは業務連絡を行えば足り、仕事以外のことを話す必要など無いわけです。しかし、会社は職場の雰囲気作りの大切さを説きます。人事部は一時期、職場での私語が残業を増やすなどと見当違いなことを言いながらも、結局は雑談を一つのツールとして、在宅勤務下での良好な人間関係維持を模索しているのです。会社は、円滑な人間関係維持のための雑談の有効性を認めたのです。

 

かく言う私も、雑談の有効性について当初は懐疑的でしたが、部内の人間とのコミュニケーションを活性化させる効果があることが分かりました。また、世間話などを通じて垣間見える相手の意外な側面から、その人柄や思考パターンを知ることが出来ました。共同で仕事を行なう上で、グループに属する各人の性格や個性に配慮した対応を考えることは重要なことで、その点、雑談は相手のパーソナリティーを理解する好機でもありました。

 

話の後の沈黙が怖い

相手を知る上で雑談が有効であるのと同時に、場の雰囲気を作るための雑談の役割も重要です。

 

会社の同僚や商談相手との会議や面談。予定時間よりも早く集合した場合など、たとえ頻繁に顔を合わせている間柄だとしても、沈黙は気まずさを醸し出します。仕事以外に話をしたことが無い相手の場合、何か共通の話題が無いか、あるいは、仕事以外の話を振っても良いのか、そんなことを考えていると沈黙はさらに続きます。沈黙でその場の空気が固まらないように、雰囲気を和ませる雑談を提供するのも仕事のうちです。

 

私はこれまで、自分は雑談が好きではないと思っていました。事実、同僚や取引先とスモールトークをするのが億劫だと感じることがほとんどなのですが、仕事柄そうも言っていられないので、話題を提供できるようにいろいろ情報を仕入れる努力を怠らないようにしています。

 

雑談や世間話。自分ではかなり無理をして、“ネタ”を仕込んでいるのですが、考えてみると、私は話が嫌いなのでは無く、自分の振った話が受けなかった時のことを恐れているのだと、今さらながら気がつきました。

 

もちろん、私は噺家の方々のように話芸を生業とする者ではありませんが、自分が話を振るからには、相手に喰いついてもらいたい、感心してもらいたいと、心の底では思っていたのでしょう。つまり、沈黙は沈黙でも、自分の話が“すべった”時の沈黙を恐れていたのだと思います。

 

その点、関西の取引先の方々は、ほぼ全員、話の最後に“オチ”を仕込んで来ます。会合の場などで、沈黙を恐れるのとは逆に、雑談 – というか、持ちネタ – を披露することを楽しんでいるかのようです。私は、雑談のために仕入れた情報を“持ちネタ”だとは思っていませんが、相手を楽しませようと言う“もてなし”の気持ちが欠けているので、雑談を億劫に感じていたのでしょう。

 

部内のコミュニケーションタイムが、私にとって気が楽なのは、15分と言う時間が決まっていることと、会社の業務の一環で話をしているだけで、相手をエンターテインする必要が無いからなのです。

 

また、家族との会話が楽なのは、話の“オチ”をいちいち考える必要も無く、蘊蓄の無い話を続けていても文句を言われないからなのです。もっとも私の話は、娘たちからは、「長い」、「ウザい」と言われることがままありますが、そのようなクレームも気にしなくて済むのが、家族内での雑談なのです。

 

本来の雑談とは、中身の無い、どうでも良いことの寄せ集めで十分なはずですが、仕事の場では、雑談とは言え、それなりの“格調”が求められるため、気遣いして疲れてしまうのだと思いました。

 

しかも、四六時中家で顔を合わせている家族とは、わざわざ意識して雑談などしません。一緒に過ごしていても、その間ずっと会話を続けることなどありません。その時自分の頭に浮かんだことを口に出し、それがきっかけになって“雑談”が盛り上がることはあるでしょうが、そんな話題が無くても、自分が自然体でいられる相手との間では、沈黙を気にすることなど無いのです。