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困った上司

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批判するだけの上司は要らない

人のやることにいちいちケチをつける。そんな人間はどこの世界にもおりますが、自分に直接危害が加わらない限り、近寄らないようにしておけばいいだけです。しかし、それが自分の上司になったら・・・。

 

会社に就職して経験を積み、役職が上がるとそれなりの責任がついて回ります。それまでは自分に任された仕事をしていればよかった立場から、部下に仕事を委ね、自分は組織を管理して判断をする立場になります。

 

管理職は本来そのような素養のある人間が任される仕事のはずですが、例外も少なからず存在します。

 

私が最初の海外駐在から本社に戻ったのは30歳を過ぎた頃でした。私の異動先は海外事業の管理を行う部署で部員10数名。地域ごとに3つの課に分かれていました。私の所属した課の上司は金融機関からの出向者でした。見た目堅いイメージの課長でしたが、若手や中堅社員にもよく声をかけてくれて、気遣いがこちらにも伝わってきました。部署の中の評判も上々です。その上の部長は元々技術畑の人間でしたが、数年前に海外部門の担当となりました。

 

さて、私の課では毎週金曜日に現地と電話会議で現況報告を行うことになっていました。現地スタッフも会議に参加するため、英語でのやり取りです。今のようなテレビ会議システムが普及していなかった時代、現地とのやり取りは専ら電話で行いますが、通信状態が悪いと相手の声がとても聞き取りにくいこともあります。

 

私は駐在中に、“反対側”で会議に参加していました。日本からの音声が聞き取りづらい上に、部長の英語が非常に難解だったことに辟易していました。いつも会議の終わりに“〆の”話をするのですが、恐らく日本語で話されたとしても理解しづらかったと思います。つまり、話の要点が分からないのです。

 

日本人でさえ理解できないことを現地のスタッフが理解できるはずがありません。決まって会議が終わった後に、その場にいた現地スタッフ数人がニヤニヤしながら「部長は何て言っていたの? 怒っていたみたいだけど」などと私に聞いてきます。聞かれる私も困ってしまいました。現地からはいつも所長がメインで話をするのですが、提案や部長に判断を仰ぐ案件を持ち出すと、まずすんなりOKとは通りません。細かいことを突き回した挙句に、「俺が分かるように説明しろ」となります。ときには、前の週に承認した案件の進捗を報告すると、「そんなことを許した覚えはない」。出来の悪いコメディーのような状況に、現地スタッフのニヤニヤが止まりません。所長ひとりうな垂れているのがお決まりのエンディングシーンになっていました。

 

結局、私はその部に2年ばかりいたのですが、部内発案で部長が決断したプロジェクトを目にすることはありませんでした。部長が手掛ける案件は“天から”降りてくるものばかりでした。

 

部下の持ってくる案件を批判するだけで、仕事をしたつもりになっている上司は、この部長が例外ではなく、意外に多いと思います。人の粗探しは簡単なことです。部下が上げてくる案件の欠点をあげつらうことでマウントを取る上司は、自分が批判されることを恐れるため、物事の決断ができないのではないかと思うのです、

 

決断しないで偉くなる

その部長の被害者は現地所長だけではありません。私の直属の上司は金融機関出身だけあって、数字には滅法強い人でした。出来の悪い私にプロジェクトの経済評価の仕方を根気よく教えてくれたのもこの課長です。

 

隣の課で、あるプロジェクト着手について社内承認手続きが進んでいました。人の仕事にケチをつけることが得意な部長でしたが、このプロジェクトだけは余計な口を挟みませんでした。社長から降りてきた案件だからです。

 

しかし、これに異を唱えたのが私の上司でした。原料の単価やリスク前提が“大甘”で、前提が少し下振れしただけでプロジェクトの採算限界を割ってしまう危険がありました。そのことを部長に忠告すると、部長は「部外者が口を出すな」と言い放ちました。

 

出向先とは言え、自分の所属している会社のためを思っての言葉が伝わらなかったことに、課長はさぞかし悔しい思いをしたはずです。ちなみにそのプロジェクトは課長の危惧したとおり、立ち上げから数年で頓挫してしまいます。

 

部長は社内の根回しには非常に長けていました。件の社長案件の他、役所絡みの案件をいくつか立ち上げた“功績”から、上層部の覚えは良かったようです。社長案件であれば、万が一、失敗プロジェクトになっても自分が詰め腹を切らされることはないと知っていたからこそ、そのようなことができたのだと思います。

 

反面、部内で上がってくる案件は、言を左右に決断を先送りします。海外の会社との相対取引は時間との勝負です。こちらが速やかに投資を決断しなければ、相手は逃げて行ってしまいます。部長にとってのリスクとは、事業リスクではなく自分の出世に対するリスクだったのでしょう。

 

部長はその後トントン拍子に出世し、社長補佐として副社長にまで登り詰めました。