和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

考えない人々

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評論家集団

毎年、翌年の事業計画策定に先立って役員の勉強会が行なわれます。2日間に亘り、副社長以下の役員が会議室に終日缶詰になり、事務局が提示した“宿題”に対して、各役員が用意したプレゼン資料を発表して、それをたたき台に議論を行なうそうです。

 

 “そうです”と言うのは、勉強会は管理部門主導で行われるため、事業部門の人間は誰も出席しておらず、役員や事務局からのまた聞きで、どのような勉強をしているかを知ることになるからです。

 

勉強会は今年で4年目となります。役員の勉強会ですから、“宿題”に対する答えや当日発表する資料は役員自らが考えるのが当然です。普段、仕事を下の人間に丸投げしていても、自分たちの勉強会なのですから、それまで丸投げしてはいけません。

 

ところが、私の元上司だった担当役員は、その資料作りも部下の仕事と勘違いしていました。最初の年、私は役員の指示を断り、自身で考えるよう諫言したのですが、当の役員は隣の部の部長に指示を出して資料を作らせました。2年目以降は、その部長を間に挟んで私に資料作りを指示し、それを私が断ることを繰り返してきました。

 

今年、私はお役御免となったので、そんな煩わしいやり取りをしてきたことすら忘れていたのですが、私の後任の部長から資料作りの相談を受けました。私がこれまでの経緯を話し、受ける必要の無い仕事であることを説明したのですが、隣りの部の部長から、「今まで自分が全て被ってきたのだから」と、今年の勉強会の資料作りを押しつけられたようでした。

 

そんな話を聞くにつけ、役員勉強会のための準備としては、何ともレベルの低いやり取りをしていることに、暗澹たる気持ちになってしまいました。

 

思えば、数年前まで、役員が構成メンバーである役員会でも、審議案件の資料作りから説明まで全て担当部署の部長が行なうことが慣例となっていました。細かな質問への対応のために“陪席”しているだけの部長が、説明から質疑応答までを行なうのはおかしいと、複数の部署からの声もあり、大分時間が経ってからようやく「役員会の説明者は案件を担当する役員とする」との一文が運営規則に加えられました。

 

事務局で働いている若い社員は、会議中の役員の姿を良く見ています。自分の仕事は下に丸投げ。会議では他の部署から上がってくる案件を批評するだけで対案を出すこともしない。恐らく、勉強会でも同じようなことが行なわれているのでしょう。建設的な意見は出さない一方で、他人のアイデアは批判する – そんな評論家が何人集まっても会社を動かすことは出来ません。それを恥ずべきことと感じないでいるようであれば、意欲のある若い世代からそっぽを向かれるのも時間の問題です。

 

出世の秘訣

私が役員秘書の仕事をしていた頃は、役員とは毎日顔を合わせているにも拘わらず、執務室に入る時は自ずと背筋が伸びてしまう緊張感がありました。

 

私が歳を取って、その年代に近づいたためなのかもしれませんが、今の役員の顔ぶれを見ても、そのような緊張感を覚える威厳がありません。

 

後付けの理由になってしまいますが、当時、会社は新規事業を立て続けに失敗している時期でした。事業環境を全ての言い訳にしてはなりませんが、運にも見放された状況と言えないこともありませんでした。

 

以来、会社は“失敗しない”事業戦略へと静かに舵を切りました。新規事業の投資基準は引き上げられ、余程の低リスクでなければ審査を通ることが出来なくなりました。しかし、リスクが低いと言うことは、成功リターンも低く、会社の業績回復への貢献度と言う点では頼りになりません。

 

結局は、会社の興隆期に先人が残してくれた“遺産”を一寸刻みに食い潰しているのが現状です。余計なことはしない、余計な判断はしない。それが昇進の秘訣になってしまったのでしょう。自らは何もせず、誰かが自滅するのを見て来た者が登り詰めた結果が、今の経営陣の顔ぶれです。

 

考えない人々

役員勉強会の資料作りを頼まれ、頭を抱えている私の後任の部長。私は手助けするつもりはありませんでしたが、“参考までに”過去のプレゼン資料を見せてもらいました。どれも、役員同士で議論するようなものでは無く、部長間での意見交換で使われるような議論の頭出しが羅列されていました。

 

この資料が役員勉強会でのディスカッションにはそぐわないことを誰も指摘しなかったのか、私は疑問に思いました。いずれにしても、部長レベルで片付く議論を役員同士で時間をかけるほど馬鹿げたことはありません。

 

私は部長に、役員勉強会でどのような議論を期待しているのかを事務局に確認するように言いました。勉強会の音頭を取っている事務局がアイデアを持っていないはずはありません。

 

私は改めて、役員勉強会の資料を下の人間が作ることに疑問を呈しました。部長は部門の中で一番若い部長です。それが担当役員にも隣の部の部長にも逆らえない理由なのか。私がそのことを尋ねると、彼は、「仕事を片付けた方が嫌な思いをせずに済む」と一言。

 

恐らく担当役員も、自分で考え抜いて知恵を絞るより、ノーと言えない部下に仕事をやらせた方が楽だとしか考えていないのでしょう。

 

自分の使命を考えないで、その場しのぎに仕事を丸投げしたり、引き受けたりすることで、社内に「考えない人」が増えて行きます。