出世の道を外れたら(1)

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天狗の鼻に詰まっているもの

私の同期で1人、不遇の会社人生を送っている男がいます。彼は入社式で新入社員を代表して答辞を任されるほど会社から買われて入社した、優秀な男でした。しかし、その優秀さが仇となります。配属先の上司や先輩社員が自分よりも劣って見えたのか、上からの指示を蔑ろにした行動が目立ち、また、上司に食って掛かることもしばしばでした。同期会は彼の独壇場で、上司が如何に無能で、そのために自分の能力が発揮できないかを滔々と話すのでした。

 

そのような社員を持て余した会社は、彼を関連会社に出向させます。まだ設立して間もなく、上司1人部下1人の部署で、個人の力量が発揮できる、彼には打って付けと思われるポジションでした。そこで彼は本来の能力を存分に発揮し、若手社員の中でも一目置かれる存在となりました。それからしばらく、彼は伸び伸びと仕事をしているようでした。

 

その状況が変わったのは、本社移転の話が出た時です。当時入居していたビルとの賃借契約が更新時期となり、条件が折り合わなかったため、賃借料の安価な場所に本社を移す話が持ち上がりました。

 

本社移転はまだ水面下で動いているだけの話でしたが、それをどこからか聞きつけた彼は、驚いたことに当時の社長に移転反対を直訴するという行動に出ました。しかも、秘書を通じて社長のアポを取ることも無く、いきなり役員フロアに押し掛けたのです。なぜ後先を考えずに社長に直訴などしようと思ったのか。その結果に思いが至らなかったのは、彼があまりにも自分を過信していたからでしょう。

 

彼の不遜な態度は社長の逆鱗に触れました。以来、彼は会社の中でも浮いた存在となってしまい、周りの人間も彼とは関わりを持たないようになりました。昇格試験は上司の推薦が必要ですが、彼を推薦しようものなら自分の評価にも関わると思ったのか、どの上司も彼の昇格試験受験を推薦することはありませんでした。

 

彼は自分に能力があることで天狗になっていたところがありました。不遇の会社人生も自分で蒔いた種です。どんなに能力があっても、一度会社からダメ社員のレッテルを貼られてしまうと、それを剥がすことはほぼ不可能です。

 

失って、得られたもの

仕事を干され昇進の道を閉ざされた彼。例の事件からしばらくして、本社のエレベーターホールで偶然顔を合わせました。無理やり作った笑顔は、かつて同期会で自信満々に演説をぶった人間とは別物でした。

 

以来、彼はずっとヒラ社員のまま現在に至っています。数年前の一時期、うつ症状からしばらく休職していましたが、今は職場復帰しています。しかし、彼が若手社員の中で“期待の星”だったということを知る人間は、今では社内でもごくわずかです。

 

私はたまに、同僚から貰いタバコをして会社の喫煙室に寄ることがあります。そんな、たまの息抜きの時に彼と顔を合わせることがあります。お互い仕事のことは話題にはしません。私が彼の体調を聞くと、“ぼちぼち”という返事が返ってきます。毎回返ってくる返事は分かっているのですが、お約束のやり取りです。新入社員の時のようなハングリーさは消え、当時よりもふっくらとした彼の表情はとても穏やかです。私としても、今の彼の方が話しやすい気がします。これが本当の彼の姿なのでしょう。天狗の鼻に詰まっていたものが彼を狂わせていただけだったのかもしれません。

 

レッテルは剥がせない

別の記事でも触れましたが、私は転職希望者の面接に立ち会うことがあります。面接のときには、転職を希望する理由を問うてもありきたりの返事しか返って来ません。“上司との折り合いが悪い”とか“いじめに遭っている”とか、こちらが気の毒に感じるような理由にはお目にかかりません。

 

しかし、中途入社した社員に、後になってからいろいろと聞き出すと、やはり、転職の理由には多かれ少なかれ会社に対する不満というものが存在します。

 

30代前半で私の勤め先に移ってきた男性社員。事の真偽はともかく、彼から聞いた話はこうです。

 

女性の多い職場で直属の上司も女性。最初の頃は華やかな職場が好きだったという彼でした。仕事にも自分のアイデアを生かした提案をし、部署の評価も高まって行きます。しかし、出る杭は打たれるという言葉どおり、やがて上司から煙たがられることに。

 

新しい企画提案のための会議資料を任された彼は、何度もダメ出しを食らいながらも、会議前日に徹夜で資料を仕上げました。会議当日、上司から休暇を取るよう促された彼でしたが、彼の不在の間に新企画の手柄は上司に横取りされました。

 

そのようなことが度重なれば、彼でなくても気が変になります。結局、体調不良により彼は閑職へと異動になりました。元はと言えば上司からの嫌がらせにより体調を崩したのですが、何故か社内ではストレス耐性のない社員ということになってしまいました。

 

そのようなレッテルが貼られてた以上、この会社にいてもやりたい仕事はできないとの思いで、彼は転職を決意したようです。

 

×がついたらおしまい

会社という組織は、往々にして減点主義で人を判断します。万事滞りなくできて当たり前。その結果、加点よりも減点されないことに気を配ることになり、どんぐりが背比べをしているだけの組織に成り下がります。ドラマのように“型破りな”熱血サラリーマンが成功を収めるストーリーなどお目にかかれません。

 

そんな中、自己の慢心や上司からの嫌がらせなど理由は様々ですが、一旦ついたマイナスを挽回することは並大抵のことではありません。