パワハラ防止という足かせ

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気がつけばパワハラ

今の時代、管理職の職務のうち、部下の育成や業務管理の重要性は益々高くなっています。私の会社でも、年度初めには部下と面談の上その年の業務目標を立て、キャリアアップのための育成方針を考えます。秋には中間の面接、年度末には業務目標の達成度の確認と人事考課を行います。部下の成果と成長は本人の給料や賞与に反映されるので手を抜くわけにはいきません。

 

他方、部下を叱咤激励したつもりだった上司がパワハラ扱いされるというケースが増えています。部下に対して良かれと思って行った注意やアドバイスが嫌がらせと言われてしまっては上司としては堪りませんが、これも世の流れと受け止めざるを得ないのでしょう。

 

私の職場での上司・部下の関係が変化し始めたのは、“ハラスメント”という言葉が一般に認知され始めた頃からでした。「セクハラ」は私が就職した頃にはすでによく耳にする言葉になっていましたが、“嫌がらせ”の類型が「パワハラ」や「モラハラ」などへと広がりを見せるようになったのは大分後の話です。また、どのハラスメントにも共通して言えることは、時間とともに“アウト”と“セーフ”の境界が厳しくなってきている、換言すると“セーフ”の領域が狭まってきているということです。自分の言動が、気がついたらパワハラだったということもあり得ます。

 

ハラスメントかどうかは相手次第

数年前、私が海外駐在中に人事部内に「ハラスメント相談窓口」が開設されたというメールが配信されました。社員からの相談を受けると人事部が事実確認を行い、ハラスメントが事実であると認定されると、その度合いが軽微であれば“加害者”は警告。懲戒事由に当たると認められた場合には、賞罰委員会にかけられる。うちの会社も世間並みになったなどと思っていましたが、しばらくして出張で本社に出頭した際に、幹部社員は戦々恐々としているという話を耳にしました。

 

それまで、賞罰委員会にかけられるのは、通勤途上の痴漢行為や窃盗など、警察にご厄介になるケースやセクハラ行為がほとんどでしたが、パワハラが初めて賞罰委員会の対象となると、社内の様子が大きく変わりました。結局、最初のパワハラ事案は懲戒こそ免れましたが、“加害者”である上司はひっそりと関連会社に出向となりました。

 

その後しばらくして、幹部社員は“ハラスメント研修”を受けることが義務付けられました。この研修自体を否定するつもりはありません。しかし、「ハラスメント」と言う言葉が頭をよぎり、部下を適切に指導できなくなる幹部社員が増えたのは間違いありません。相手が不快だと感じればハラスメントだという誤った認識が横行したため、上司は委縮し、部下は尊大になるという関係が出始めました。私も帰国後、本社勤務となってすぐに“研修”を受けました。

 

研修で特に重視されたのは、パワハラ防止についてのガイドラインでした。これまで若手社員の仕事として当然視されていたことがパワハラ認定される可能性があるという話を延々と聞かされました。部署内の宴会の幹事や飲み会参加の強要、仕事の上での過剰な注意等々、パワハラに該当する事例の説明がありました。もちろん、このような研修を受けなくても、昨今の風潮を理解している者としては、部下の扱いにはこれまで以上に気を遣うようになっています。

 

パワハラに怯える会社

それでも、10年弱日本を離れていた私にとっては戸惑うことばかりでした。上司と部下の関わり方の大きな変化。いい意味で、“何でも相談できる上司”になるよう、管理職は研修で繰り返し“教育”されてきた効果だと思います。部下から見た良い上司像に近づけるよう幹部社員は努力しています。ただ、これは両刃の剣で、「何でも話せる」ことと「友達感覚」を混同してしまう若手社員が増えてきました。

 

私が帰国後に勤務した部署では、チームリーダーの私の下に、30代の中堅社員1人、20代の若手2人、それに派遣社員の女性が1人が働いていました。私の前任が半年あまり前に退職したためにリーダーのポストがしばらく不在でした。その間、中堅の社員がリーダー代行を務め、部長はほとんど彼に仕事を丸投げしている状態でした。

 

私の着任早々、業務の配分方法で中堅社員と揉めました。チーム内のそれぞれの社員がバラバラに動いていて、組織として効率的な仕事の進め方をしているとは見えなかったからです。彼としては、“新参者”の私が仕事を取り仕切ることへの反発もあり、また、実質“リーダー”だった自分が再びヒラ社員に“降格”することに我慢ならなかったのでしょう。最初から私に対して敵意むき出しだったのです。

 

そして、本社復帰後1週間も経たないうちに私は人事部長から呼び出しを食らいました。当時の私の上長も一緒にです。私が事情を説明すると、人事部長も上長も納得はしてくれましたが、それでも一言、「パワハラにならないようにうまくやってくれよ」。そこで人事部長から、私の前任者が部下からの突き上げに音を上げて精神的に参ってしまったという話を聞かされました。「うまくやってくれよ」では何の解決にもならないことが良く分かりました。

 

テレビのドラマでは、“型破りな”主人公が崩壊したチームに乗り込んで、聞き分けの無い部下たちとぶつかり合いながらも、最終的には“ワンチーム”になる、というハッピーエンドで幕を閉じるのでしょうが、現実はそんなに甘くありません。

 

その後の約1年間、事あるごとに私と中堅社員は衝突し、社内でも噂となりました。そして、ある契約トラブルの対応が遅れたことが問題となり、私は別のチームに異動となりました。私の出張中に発生したトラブルを、中堅社員が私に伝えずに自分で処理しようとして傷口を広げてしまったのです。もちろん管理責任は私にありますので、異動もやむを得ません。不思議と私は口惜しさや、憎悪といった感情が湧いてきませんでした。むしろ、部下との関わりから解放されたことに安堵を覚えました。

 

その後、件の中堅社員も別の部署に異動になりました。私の後任者は、中堅社員を外すことを条件にリーダーになることを引き受けたのです。

 

今の若手・中堅社員が全てそうだと言うつもりは毛頭ありませんが、中には上司が自分の意に沿わないことを指示するのはパワハラだと信じている者もいます。また、周りを見渡して、上の者が部下を腫物扱いしている様子から、自分も上に対して何を言っても許されると勘違いをしている者もいます。

 

部下を注意し指導すること自体はパワハラではありません。部下を管理するということは、ご機嫌を取ることでは決してありません。スポイルされた社員が増えれば組織の体をなさなくなってしまいます。