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社員を大切にしない会社

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社員が流出する理由が分からない

若手社員の自己都合退職が珍しいことで無くなると、会社からの執拗な引き止めというものも無くなりました。私の勤め先では、ひと昔前までは、自己都合退職を届け出た社員はその後退職までの間、人事部付きとなりました。転職を前に会社の機密情報にアクセスできないように隔離するというものですが、退職する本人からすれば、仕事を干されたという以外何の意味もありません。就業規則で社員の秘密保持義務を定めているわけですから、そのような嫌がらせをする必要など全く無いにも拘わらず、です。なぜ、旅立とうとする人間に対して、最後に嫌な思い出を残すような真似をするのか。私には理解できませんでした。さすがに、今はわが社でもそのようなことは行っておりません。ホワイト企業ですから。

 

約30年前、私が入社して間も無い頃、自由選択定年制度ができました。45歳以上の社員は割増退職金を手に“定年退職できる”という制度です。会社としてはバブル期の過剰採用の調整のために早めに手を打っておいたということでしょうが、しばらくして、この制度を利用した転職者が後を絶たなくなったことから、会社は適用年齢を45歳以上から50歳以上に変更しました。さすがに50歳からの転職はハードルが高くなるため、同制度を使っての転職はほとんどなくなりました。

 

ところが、会社側の意に反して、その後、若手・中堅社員の転職は増えていきました。会社としては、辞めてほしくない年齢層です。私が若手社員だった頃は、転職していく者は、まるで会社に対する背信者のような扱いでしたが、それも数が増えるにしたがって、会社も気がついたのか、そのような嫌がらせも無くなりました。今となっては昔話で、現在我が社で働いている若手・中堅社員はそのようなことを知りません。

 

当時、転職者を悪し様に言っていた中には、役員となってまだ会社に残っている者がいます。あの頃、自分の部下が会社を辞めて行くとき、彼の心中を察することができなかった人間が、今になって若手社員のモチベーションを上げることや、中途採用による組織補強に腐心しているのは滑稽です。

 

今も昔も若手・中堅社員が会社を辞めて行く理由のほとんどは、思い描いていた仕事ができない、将来像が見えないということです。直属の上司であれば、日ごろの様子や会話からその深刻度は分かるはずです。それをただ仕事が嫌になっただけだと、自分に都合のいいように解釈する人間に、悩みを抱いている者の本心など分かるはずがありません。

 

社員を大切にしない会社

学校の成績表と同じく、社員にも成績表があります。学校の成績表は学期ごと、学年ごとに評価をし直すので、去年の成績が悪くても、今年一生懸命頑張ればオール5だって夢ではありません。社員の成績表は、少なくとも私の勤め先では、一度ついた×は容易に消し去ることはできません。役員や上司への苦言が一生尾を引くこともあります。逆に役員からの受けが良ければ失策はお咎めなし。そのような様を見ている若手・中堅社員が、会社に対して心を開くことを、なぜ役員の面々は期待するのでしょうか。情報が自分のところに上がってこないことで部下をなじる前に、何故部下が自分に心を開かないのかを考えることが先なのです。

 

自分の非を一寸でも認めない経営陣。彼らがやろうとしていることは、蛇口が開いたままの水槽にせっせとバケツで水を注ぎ足しているだけなのです。これでは何の問題の解決にもならないのですが、だれも蛇口の閉め方を知ろうとしないのです。

 

会社は、海外留学のチャンスを与えたり、社内公募で幹部候補研修を受けさせたりすれば、若手・中堅社員のモチベーションが上がると思っているフシがあります。プレミアムフライデーやノーネクタイを採用して、働きやすい職場であることをアピールします。それ自体は否定しませんが、人材流出の理由はそこではありません。

 

社員を大切にしない会社で、会社のために尽くそうという社員が育たないのは自明です。

 

会社を選ぶ

就職活動のとき、私は、給料はそこそこでも、一生取り組める仕事がしたいという希望を持っていました。今50代となり、定年が近づいてくるとそのような思いは薄れ、残りの人生をどのように生きるかということを考える時間が多くなりました。

 

新卒で就職するにしても、転職するにしても、会社を選ぶ基準があります。それが、金銭欲であろうと、名誉欲であろうと、私はいいと思います。その欲求を満たすための過程において、自分が取り組みたいと思える仕事に出会え、達成感を味わえるのであれば、それ以上のものはありません。もっと言えば、金銭欲や名誉欲が無くなってもやり遂げたいと思える仕事が、本当に自分がやりたい仕事なのだと思うのです。

 

今就職や転職を考えている方は、会社を選ぶとき、そこが自分のやりたいことを実現できる場所なのか、をよく考えましょう。