和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

夢の伴走者

会社員として勤めている限り、いつか定年を迎えます。私の勤め先の場合、再雇用期間も含めると六十五歳までは働くことができ、今後、再雇用期間は七十歳まで延長される見込みです。

体が動くうちは出来るだけ長く働きたい人、あるいは、働かなければならない人もいることを考えれば、雇用期間の延長は悪いことではないと思います。

私はその権利を放棄しました。体が動くうちに、仕事を続けるよりも自分のやりたいことを実現させる方を選びました。

妻と結婚したのは会社に入って二年目のことでしたが、当時の定年は五十八歳。その後二年間の再雇用のオプションがあり、完全にリタイアするのは六十歳というのが、会社の就業規則の定めでした。

そんなこともあり、私たち夫婦の間では六十歳が区切りで、定年後の夢 ― リタイアした後の生活をいかに充実させるか ― を抱き続けることが働くための励みになっていました。

妻の思い描くリタイア後の夢は、世界遺産や諸外国の国立公園巡り。健康に問題がなければトレッキングも続けたいというものでした。

私の場合、定年後の自分の時間をどう使うべきなのかよく分かっていませんでしたが、会社の仕事とは全く別の何かを実現したいという漠然とした希望はありました。妻に「例えば?」と尋ねられ、「例えば、カリブ海の島でコーヒー園を経営するとか・・・」というと、妻は食い気味に大反対しました。“コーヒー園経営”は私の妄想のようなもので、本気で受け止められるとは思いもしませんでしたが、妻曰く「本当にやりそうで怖い」と言われてしまい、それ以来、その話は封印しています。

他方、妻はと言えば、駐在中の家族旅行で北米のナショナルパークを訪れるなど、着々と希望を実現してきているので、ある意味、リタイア後の夢を先取りしてきたとも言えます。もっとも、妻がそれで満足するわけはなく、彼女の野望(?)が果てることはありません。

当然、時間もお金も限りがあるので、妻の夢を全て叶えることは出来ませんが、私は、老後破綻にならない範囲で妻の夢に伴走することをライフワークに追加しました。夢は終わらせずに、見続けるのが楽しみなのだと思います。