和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

老後は何をする時間?

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働けるだけ働く

定年延長の傾向はこれからも続くのでしょうが、仮に70歳が定年になった場合、高校卒業後にすぐ就職すると、50年近く“働き手”として活躍することとなります。それに伴い、老後の時間は短くなります。

 

平均寿命が延びたとしても、健康でいられる時間が延びることにはなりません。リタイア後の余生を充実させたければ、健康に気をつけることはもちろんですが、体力のあるうちにリタイアを決断すること、すなわち、自分の潮時を見極めることが大事だと思います。

 

私の勤め先では、定年は60歳。その後、65歳までは嘱託として働くことが出来ます。私が入社した頃の定年は58歳、嘱託期間は2年で、60歳になると完全にリタイアとなります。当時は60歳が年金の受給開始時期だったので、収入が途絶えること無く老後生活に移行できたわけです。

 

その意味では、完全にリタイアする年齢を65歳としているのは、年金受給時期まで働ける環境が整っていると言え、理に適っています。しかし、65歳から先の人生はどのようなものなのでしょうか。

 

晩婚化が進み、子育てや住宅購入時期が遅くなればなるほど、現役で働き続ける必要が増しますが、その分、余生は短くなります。元気に働いている間は、自分が予期しない病気や怪我に見舞われることなどあまり想像できないでしょうが - 想像したくもありませんが - 加齢とともに“働けなくなるリスク”が高まることは否定できません。

 

働けるだけ働く。でも、働きたくても働けなくなることも頭に入れておくべきだと思います。

 

働く理由

仕事に生きがいを見出している人は、“生涯現役”と言うのも良いでしょう。天職を全うすることを人生の目標にするのは素晴らしいことです。一方で、仕事はほどほどに、老後は自分の時間や家族との時間を大切に過ごしたいと言う人もいると思います。仕事を天職として捉えるか、あるいは、生活の手段として捉えるかで、自分の潮時は変わってきます。

 

私は、何となくぼんやりと就職してしまったので、老後を見据えた人生設計などを真剣に考え始めたのは、妻と結婚してからの話です。定年までに勤め上げると、どのくらいの蓄えが出来るのか、夫婦二人と、もし、子どもが生まれたら、どのくらいの生活費がかかるのかをざっと計算すると、何にどれだけお金をかけることが出来るのかがおおよそ見当がつきます。

 

私たちが結婚した当時は、バブル崩壊後で、給料が右肩上がりと言うのは幻想となり、先行きが見えない時代でした。その意味で、私たち夫婦が派手な生活を避け、貯蓄に励んだのは、漠然とした不安から逃れるための手段だったのだと思います。なぜ働くのか。私たちにとっては、不安を解消するためにしか過ぎませんでした。

 

アーリーリタイアメントと言う発想

「FIREムーブメント」と言う言葉をお聞きになった方もいるかと思いますが、実はそれほど新しいものではありません。“Financial Independence, Retire Early”。出来るだけ若いうちに働いて貯蓄に励み、蓄えた資金の運用益だけで生活できるようになったら仕事を辞めると言う生き方です。低金利の時代の現代では、生活できるだけの運用益を得るためには、相応の元手が必要で、普通の会社員ではなかなか手の届かないライフスタイルだと思います。

 

90年代後半、私は最初の海外駐在で北米の地に移り住み、ファミリータイプの一軒家を借りて新生活をスタートさせました。隣家は私たちよりやや上の年代のご夫婦で、キンダーガーテンに通う女の子が一人と言う家族構成でした。

 

女の子の送り迎えは夫婦が交代で担当しているようで、私が家を出る時間帯に頻繁に顔を合わせるようになりました。その頃、妻は妊娠7か月で、右も左も分からない私たち夫婦に、隣家のご夫婦はファミリードクターを紹介してくれたり、お昼をご馳走してくれたりと、親身に接してくれました。

 

話を聞くと、ご夫婦ともに数年前まで勤めていた会計事務所を退職して、今は不動産の家賃収入と金融資産からのリターンで生活しているとのことでした。私が、アーリーリタイアメントやFIREと言う言葉を初めて知ったのもこの時でした。

 

現在日本で使われている“アーリーリタイアメント”は、一般的な定年の時期よりも少し早く退職するといったイメージではないでしょうか。これに対して、件のご夫婦は、生涯暮らして行けるだけの貯蓄・運用益を人生のステージのかなり早い段階で達成していたようです。 “働いてお金を稼ぐ”段階を出来るだけ早く卒業して、自分だけの時間、家族のための時間を手に入れると言う大きな目標を持っていたのです。

 

積極的なリタイアメント

アーリーリタイアメントと言う発想は、当時の私にとっては、羨ましいとは思うものの、自分とは縁の無い話だと勝手に割り切っていました。また、就職したら定年まで働くのが当たり前、定年後は余生だと思い込んでいたのです。

 

人生の目的、それを達成するために必要な目標・手段。若い頃、将来の不安を拭い去ろうと働き続けてきた私は、50歳に差し掛かってから、ようやく、根本的なことを考え始めたのでした。お金を稼ぎ、蓄えること。本来、充実した人生を送るための手段が、いつの間にか目的になっていないか。人生の本当の目的は何なのか。家族との時間を大切にしたいのであれば、もっと積極的に働くことからの卒業を考えても良かったのではないかと思っています。