和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

第二ラウンド

 

妻が乳がんの摘出手術を受けたのは三年あまり前のことでした。それから先月まで放射線治療抗がん剤の投与を続けてきましたが、主治医の先生から治療の終了が伝えられました。

抗がん剤の副作用との闘いはおしまいです。手術で取り除けなかった患部は、治療で消えることも広がることもなく、がんの転移もありませんでした。これからは半年に一度の血液検査と主治医の先生との問診を続けていくこととなります。

妻に寄り添うことしかできなかった私は、治療終了を悪くは受け止めていません。言い方は良くないかも知れませんが、「気が済んだ」という表現が一番近いかもしれません。寛解とはならずとも、手術と治療によってひとまず危機は脱しました。少なくとも今日明日を心配しながら生きていく必要はありません。

妻には自分のやりたいことを誰にも気兼ねせずに叶えてもらいたい、そのために私は彼女を支えていきたいと考えます。

妻はリハビリ勤務で仕事を続けてきましたが、これを機に本格復帰したいと言います。手術の後遺症で左手に少々麻痺は残っていますが、デスクワークなら大した支障はないでしょう。できるだけリモートワークの日数を増やしてもらうなどして、体に負担のかからないように気を付ければ仕事は続けられると思います。妻もそう考えているようです。

家でじっとしていられない妻の性分は、病気になっても変わることはありませんでした。リハビリ勤務の間も、体調の良い日は会社に顔を出していました。同僚の皆さんとの関わり合いが妻に元気を与えてくれていたのは確かです。

妻も私も“アラ還”です。間もなく人生の第二ラウンドが始まります。子育ても終わり、終の棲家も用意できました。これから先は、自分のやりたいことに好きなだけエネルギーと時間を費やしても、誰も文句を言いません。

人生の第二ラウンドは、その時を待たずに自分でゴングを鳴らしても良いのかもしれません。