和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

母乳と粉ミルク

連休中に家族で衣類の断捨離をしていた際に、娘たちが赤ん坊の頃の服(段ボール箱一つ分)を処分しました。生後から一年くらいの間に使っていたものですが、生まれたばかりの子どもの成長は驚くほど早く、すぐにサイズが合わなくなったため、衣類の状態はそれほど悪くならないうちにお役御免になりました。

これまでは、甥や姪、あるいは娘たちに子どもができたら使ってもらえるかもしれないと取っておいたものですが、いくら身内とはいえ、三十年物の古着を使わせるのはどうかと思い廃棄することにしました。

子供服を詰め込んだ箱の中から未使用の粉ミルクや瓶詰の離乳食も見つかりました。たぶん、何も考えずに箱に詰め込んだのでしょう。もちろん、消費期限切れなので廃棄しました。

上の娘が生まれた時、妻は母乳で育てたいと強く拘っていました。当時は北米に駐在中。帝王切開での出産でしたが、三日で退院したあとは自宅での育児となりました。

実際の育児は本に書いてある通りには行きません。授乳の間隔は短く、夜間も娘の夜泣きで夫婦ともどもほとんど眠れない状態が続きました。おむつもこまめに替えているし、授乳の回数も多めです。どこか具合でも悪いのではないか。子育て初心者の私たちは右往左往するばかりでした。

二週間後くらいだったでしょうか。娘の最初の検診を受けた際に、先生は娘の体重の増え具合を見て、粉ミルクも併用するように私たちにアドバイスしました。

それを聞いた途端に妻は泣き出してしまいました。先生も私もそんな妻の様子を見て驚いてしまったのですが、妻としては、十分な母乳を出せない自分は母親失格なのだと感じたそうで、それを私が拙い英語で先生に伝えると、先生は「日本人は母乳が出ないと“ハラキリ”するのか?」と面白くないジョークを飛ばしつつ、看護師に粉ミルクの入った紙袋を持って来させました。

粉ミルクを併用した結果、娘の体重の増加曲線は正常値の範囲に収まるようになりました。娘の夜泣きは空腹が原因だったようで、夜間の授乳回数が減ったことで、妻と私の寝不足は大分改善されました。こんなことなら、最初から粉ミルクのお世話になっておけば良かったのですが、そのような失敗も親になるための通過点なのだと思っています。

お医者さんの前で大泣きした妻は、そのことに触れると途端に不機嫌になります。私にとっては新米ママの微笑ましいエピソードです。いつか、妻のお許しが出たら娘たちに披露したいと思っています。