和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

無駄遣いからの卒業

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自由に使えるお金

海外駐在から帰国した直後、妻と私は、娘たちから小遣いが欲しいとせがまれました。彼の地では、どこに出かけるにしても車が必要で、子どもだけで買い物には行けません。娘たちが何か必要であれば、妻か私が一緒に買い物に出かけることになるので、“小遣い制”は不要でした。

 

しかし、帰国して日本の学校に通い始めると、クラスメイトと寄り道をしたり休みの日に遊びに出たりと、何かと物入りになると言うのが娘たちの言い分でした。

 

上の娘は、そのすぐ後に大学生となり、アルバイトをし始めたのを境に小遣いを渡すことはしなくなりました。

 

娘が自分で稼いだお金。私は、その使い道に口を挟むことはしませんでしたが、妻からは何度か、無駄遣いしないように娘に言うように頼まれました。

 

我が家は、家族全員の衣類は一か所のクローゼットにまとめて仕舞っているのですが、確かに上の娘の服が増えていることには気づいていました。それに加えて、娘の部屋もいろいろな物で溢れかえっていると妻から聞かされました。

 

自分の稼いだお金で、自分の買いたい物を買う。それで他人様に迷惑をかけないのであれば、親だからと言って、娘にお金の使い道まで指図するのは反対でした。自由に使えるお金を何に使うのか、使うべきなのかを娘自身に考えてもらいたいと思いました。私は妻に、しばらく様子を見るように言いました。

 

喜びと虚無感の繰り返し

妻は、高校卒業後に就職し、しばらくしてから親元を離れて一人暮らしを始めました。少ない給料でやり繰りするために、自然と“節約感覚”が身に着いたと言います。

 

そんな妻の目には、娘のお金の使い方は浪費としか映らないのでしょう。そして、そのような金銭感覚では、やがて身を滅ぼしてしまうと心配しているのでした。

 

私も学生時代から就職直後くらいまで、お金の使い方に無頓着でした。学生時代は生活費や授業料を払った後に残ったお金は自由に使っていました。貯蓄と言う考えはありませんでした。本当は、計画的にお金を貯えるようにしていれば、もっと生活が楽になっていたはずなのですが、自分が自由に使えるお金ができると、それを使うことに喜びを感じてしまうのでした。

 

その場で見て気に入ったら買ってしまう - 買い物のほとんどは衝動買いでした。どうしても欲しいと思って買った物でしたが、そのほとんどを数年も経たずに手放しました。

 

結局、衝動的に欲しいと思った物の大半は、後になってから考えると、自分にとって本当に必要なものでは無いことが分かりました。お金を使う時の多幸感、それを味わうためだけの買い物だったのです。

 

就職のため、それまで住んでいたアパートを引き払う時に、買い集めた物のほとんどを処分しました。後に残ったものは、無駄な買い物をした後悔の念と虚無感でした。

 

そんな話を妻にしたところ、それなら、尚のこと娘に無駄な買い物をしないように言い聞かせて欲しいと言われました。

 

私はむしろ逆で、娘の“無駄遣い”は良いチャンスだと思っていたのです。散々無駄遣いをして、後で後悔すれば良いのです。

 

詰まるところ、お金の使い方に関する“気づき”は、自分で体験して、後悔して、得るしかないのだと思います。親が喧しく忠告すればするほど、子どもは聞く耳を塞ぎ、言葉が腹落ちすることは無いでしょう。

 

下の娘も大学生になると、自分の姉と競い合うようにして、アルバイト代を買い物に当てるようになりました。妻のイライラは募りましたが、私は様子見を決め込みました。

 

気づきの時

昨年、コロナ禍の最中に上の娘は就職しました。就職前までは、働き始めてしばらくしたら独り暮らしを始めたいと暢気に言っていた娘でしたが、給料の手取り額の少なさにショックを受けたようで、独り暮らしの話はしなくなりました。

 

また、私の体調不良や妻の発病もあって、娘たちには不安な思いをさせてしまった年でもありましたが、私と一緒に買い物に出たり、家計簿をつけるのを横で見ていたりしたせいでしょうか、上の娘のお金の使い方に変化が見え始めました。

 

娘の買い物の頻度が減りました。そして、生活費として毎月一定の額を家に入れてくれるようになりました。また、金額は教えてくれませんが、貯金を始めたようです。

 

どういう風の吹き回しか、などと娘に尋ねることはしませんでしたが、思うに、我が家の生活に何の貢献もせずに、無駄遣いを続けてきたことへの疚しさがあったのかもしれません。そして、下の娘も姉に倣って、アルバイト代の中から、生活費の足しを家計に入れてくれるようになりました。

 

家に入れてくれるお金は、娘たちが生まれた時から内緒で積み立てている “独立資金”の積み増しに回すことにしました。

 

娘たちの殊勝な気持ちは、お金の使い方についての“気づき”を得たためなのか、一過性のものなのかは分かりませんが、妻も私も自分たちのことを心配してくれる彼女たちには感謝しています。