和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

身だしなみの許容範囲

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ピアスとイアリング

下の娘が妻にピアスの穴開けをしたいと言ったら怒られたそうで、私に泣きついてきました。

 

我が家のいつものパターンです。娘たちは何かあるとまず妻に相談します。小遣いでは足りないものを買って欲しいとねだったり、友人と徹夜で遊びに行ったりと、相談事は様々ですが、妻が許せば私の許可は必要無いことになっています。

 

もし、妻が許さない場合、決まってこう言います。「パパに訊いてみなさい。ダメって言うから」。そこで私がOKと言えば、今後は私が妻から「娘には甘い」とか「私の立場はどうなる」と激詰めされるのが目に見えているため、私も返答に慎重にならざるを得ません。

 

娘も二十歳を過ぎているのだから、ピアスの穴開けに親の許可など必要無いだろうと思いましたが、娘は母親から叱られそうなことは、周到にトラブルを回避しておくのが身のためと言うことを学んでいます。かく言う私も、ここで迂闊に娘に同意すれば何が起きるか学んでいるので、本能的に即答を避けることになります。

 

私は「イアリングではダメなのか」と、娘の要求をはぐらかすように尋ねました。私の小遣いでイアリングを買って八方丸く収まるのなら安いものです。それに対して娘は、そういう問題では無いとイラつきを隠しません。私は明確な反対理由を見つけられず、娘に乞われて妻を説得する役を引き受けることとなりました。

 

妻の機嫌の良さそうな時を見計らって、ピアスの穴開けを許してやっても良いのではと言ったところ、耳に穴を開けたら、次はヘソ、鼻、舌とエスカレートしたらどうするのかとの詰問。私が何か納得させられる言葉は無いか探していると、妻は追い打ちをかけるように、タトゥーを入れたい、鼻輪を嵌めたいと言い始めたらそれでも良いのかと心配が暴走し出しました。

 

さすがに娘も一気にそこまで弾けることは無いでしょうが、そんなことを言っても妻を鎮めることなど出来ないのは私が良く知っています。

 

結局、これもいつものパターンで、娘に妻を説き伏せることが出来なかったことを報告すると、「パパに頼んでもダメなのは最初から分かっていた」と辛らつな言葉で袈裟斬りに遭うのでした。

 

見た目社会

ピアス事件の後のとある夜、食卓を囲んでいる時に妻が言いました。この春から大学四年生になる娘には就活に専念してもらいたいこと、そして、海外駐在から帰国して娘が編入した中学校での嫌な経験に触れました。

 

娘は生まれつき髪の色が明るめだったことから、学校に髪を染めているのではと疑われました。妻は地毛だと説明したものの、娘の小さな時の写真まで確認され、最後には保護者として“一筆”書かされ漸く入学の許可が下りたのでした。

 

妻が娘に伝えたかったのは、他人の目で決めつけられてしまうことの現実でした。自分がどんなに格好良いと思っても、受け取る側が拒絶すればそれまで。娘がこれから先の就活で、外見を理由に門前払いになることを親心として心配していたようです。もっとも、企業訪問や面接で学生の耳元まで確認することは無いと思いますが、そのようなことを言っても妻の不安は払拭されないのでしょう。

 

思い返すと、私の学生時代も四年生になる頃には、それまで金髪で派手な格好をしていた同級生も髪を黒く染め直して、服装もリクルートスーツでキャンパスに現れるようになったものです。

 

どんなに成績が優秀であろうと人間性に問題が無かろうと、会社は第一印象で判断します。第一印象を許容するか否かは会社側の胸三寸なわけですから、採用してもらいたい側は自ずとケチがつかない無難な格好になるのです。

 

人は外見では無く中身であることは言うまでもありませんが、それでも外見で判断される世の中なのです。

 

 

許容と拒絶

仕事上の身だしなみはマナーなので、職場や取引先で不快感を与えるようなものではいけませんが、髪の色や服装、化粧の濃さ、果てはコロンの香りなど、常識の範囲の明確な線は誰にも分かりません。

 

とは言うものの、私の勤め先では、さすがに金髪は見かけませんが、落ち着いたダークブラウン系に染めている女性社員を多く見かけます。むしろ髪を染めていない方が少数派になっているかもしれません。

 

会社の終業規則に、茶髪やパーマを禁止する規定などありませんが、かつては、ファッションとして髪を染めることは暗黙的に避けられてきたのが、女性社員の制服が廃止され服装の自由度が増すにつれて、各自の服装にあった髪の色や化粧の仕方に変わっていったのだと思います。それは身だしなみに対する会社の許容度が広がった表われでしょう。

 

それと対極的な出来事が数年前にありました。駐在国の宗教によっては男性は髭を蓄えておくのを良しとする風習があり、駐在員の中には帰国した後も髭を伸ばしたままにする社員もいました。

 

そのこと自体、社内で誰も咎めるようなものではありませんでしたが、ある時、新しく就任した天下り社長の目に髭を生やした社員が目に留まり、秘書室長に苦言を呈しました。それからしばらくして、職場から“髭一族”は一掃されました。

 

就業規則で禁止することが明示されていないことを会社のトップが禁じてしまうのは、あまりにも独裁的な考えと個人的には思ってしまいますが、職場での服装やファッションの許容範囲の線引きが無ければ、社員として相応しい身だしなみはトップの一存で決められてしまうのでしょう。

 

多様性の許容と拒絶 – そこまで大袈裟な話では無いのかもしれませんが、社会の縮図である会社の中では常に周囲の目線を気にしながら生きて行かざるを得ないのは間違いなさそうです。