和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

やりがいのため、お金のため (1)

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 シルバー人材の使いづらさ

私とペアを組んでいた若手社員が会社を去り、部内で法務・契約関連の仕事を引継ぎする相手がいなくなってしまいました。私がこの部署にいる間は仕事が滞ることは無く、いよいよとなれば、全てコーポレート部門に丸投げすることも可能なので、先のことは部の判断に任せることにしていました。

 

ところが先日、部長から、法務要員を補充すると言う話がありました。ついこの間までは、次の定期異動 – 約一年後 – まで何とか我慢してほしいとのことだったので、どういうことか尋ねると、他の部署から嘱託社員を受け入れることになったと言います。それは、補充では無く体の良い押し付けなのですが、決まった話に今さら抵抗しても仕方ありません。

 

社内では、定年後の再雇用嘱託社員の存在は悩みの種になっています。現状、本人が希望し、現職時代に余程のことが無ければ、定年退職後、65歳まで嘱託で働き続けることが出来ますが、大量採用時代の社員が再雇用嘱託を希望するため、その人数が急激に膨らんでしまいました。他方、働く意欲のあるシルバー人材を活かしきれない現場の実情があります。

 

ほとんどの嘱託の人は、自分の専門分野を活かして働き続けたいと思って、再雇用を希望したのでしょうが、当初のやる気を維持し続けられる人はそれほど多くありません。

 

技術職であれば、自分の知見を後進に引き継ぐことを嘱託期間の励みに出来るでしょう。特に職人肌の研究員は若手社員に自分の“技”を伝えることにやりがいを見出すこともあるようです。ところが、非技術職でしかも長く管理職を務めて来た中には、後進に伝承できるような技能や知識を持ち合わせていない人が少なくありません。それでは、昨日まで部下だった社員と肩を並べて仕事が出来ません。

 

ひと昔前であれば、元管理職に対しては、定年前に関連会社や取引先への移籍など、本人の体面を保つ道が用意されていました。それによって、現場では、元上司を使うことで生じる仕事のしづらさを避けることが可能でした。しかし、今やそのような役職定年後の社員の引受先も減ってしまったので、社内で何とかする以外ありません。

 

かく言う私も管理職を降りているので、立場は同じようなものです。だからこそ私は他部署への異動を希望しているのです。

 

かつて上下関係にあった人間同士が、ある日を境に立場が変わっても、気兼ねが邪魔をしてぎこちない関係から抜け出せない - そのような現役側の遠慮が嘱託の活躍の場を狭めてしまっています。

 

また、嘱託の側も、己の立場は分かっているつもりでも、自分より年齢の若い社員からの指示に素直に応じられず、“言われたことが出来ない人”と言うレッテルを貼られてしまう人も少なくありません。

 

そのように、シルバー人材活用の前には、現役世代と嘱託社員との思いの壁があるのが現状です。

 

仕事がしたい

さて、私と一緒に法務の仕事をすることになった嘱託社員。もちろん私より年長の方です。その方 – Mさん – とは“話をしたことはある”程度の関わりで、仕事上の絡みがあったわけでも無いので、その点は安心しました。ただ、Mさんは元技術者で法務業務は畑違いの仕事です。私が部長にその点を突くと、部署の他の業務もやってもらいつつ、主業務として法務・契約関係の知識習得を進めてもらうと言うことのようです。

 

還暦を過ぎてから未経験の仕事をやらされるのは、自主退職を促されているに等しいのではないか。私の頭に失礼な考えが浮かびました。自分が対応できる業務なのか否か、そうでないなら、拒否とまでは行かなくても、会社に再考を要請するくらいは出来たはず。Mさんがどのような経緯でこの異動話を受けたのか、私は大変気になりました。

 

そんなことを考えつつ、先週金曜日の朝一番でMさんとオンラインで話をしました。異動日は来月初日ですが、事前に顔合わせをしておきたいと思ったのです。

 

私は、仕事の話は異動した後に譲って、最初の打ち合わせは自己紹介に留めることにしました。Mさんは、去る4月末で定年退職となり、再雇用嘱託となりました。今の部署では中堅社員のサポートを任されていましたが、ほとんど仕事が回って来ず、手持無沙汰の毎日を送っていました。今年大学に入学したお嬢さんがいるとのことで、お子さんが卒業するまでは働き続けたい、不慣れな仕事でも構わないので、忙しくしていたいと考えているようでした。飼い殺しに甘んじることを良しとしないのは、Mさんが仕事をしたくて会社に残ることを希望したのですから、当然と言えば当然の話です。

 

私はその話を聞いて、Mさんに対して見当違いの先入観を抱いていたことを率直に詫びました。Mさんは、そのように思われても仕方無いと言いつつ、かつては入札業務の技術評価を担当していたこともあり、その関係で契約案のレビューにも関わったことがあることも話してくれました。私は、Mさんに技術的な観点から契約のレビューをしてもらえることを期待しました。(続く)